夏は、通常とは異なり夏用の着物を着て過ごします。とはいえ、夏にどのような着物を着れば良いか分からない方も多いでしょう。
本記事では、夏の着物の種類や合わせ方を初心者向けに解説しています。
夏に着る着物で迷っている方はぜひじっくりとお読みください。
夏の着物とは
夏の着物とは、裏地がついた「袷(あわせ)」ではなく、裏地がついていない「単衣(ひとえ)」の着物を指します。
単衣の中でも特に生地が薄いものは「薄物(うすもの)」と呼ばれ、7・8月に着ることが多いです。まさに夏の着物と言えますね。
今回の記事では、この薄物について詳しく説明していきます。
夏の着物の種類
薄物にはいくつか種類があります。以下の有名な3種類を紹介します。
- 絽(ろ)
- 紗(しゃ)
- 麻(あさ)
絽
絽は、からみ織と平織という技法を混ぜ合わせて織られた着物の生地です。
定期的に目(隙間)が空いているため、透け感があり通気性も良いのが特徴です。
絽の中にもさまざまな織り方があります。
- 三本絽(さんぼんろ):絽目(ろめ)がよこ糸3本でできている絽
- 五本絽(ごほんろ):絽目がよこ糸5本でできている絽
- 七本絽(ななほんろ):絽目がよこ糸7本でできている絽
- 九本絽(きゅうほんろ):絽目がよこ糸9本でできている絽
- 経絽(たてろ):たて糸によこ糸を絡めた絽
- 平絽(ひらろ):糸によりをかけない絽
- 駒絽(こまろ):糸に強いよりをかけた絽
- 紋絽(もんろ):さまざまな模様を織り込んだ絽
数字が大きいほど目が細かくなり、透け感も少なくなります。
絽は、着物だけでなく長襦袢(ながじゅばん)や半衿(はんえり)・帯に使われることも多いです。
紗
紗は、二本のたて糸に対してよこ糸一本ずつを絡めて織られた着物の生地です。
生地全体に同じ間隔で目が空いているため、絽よりも透明感があり、通気性もさらに高くなっています。
絽と同様、紗も種類が豊富です。
- 平紗(ひらしゃ):糸によりをかけない紗
- 駒紗(こましゃ):糸に強いよりをかけた紗
- 紋紗(紋者):さまざまな模様を織り込んだ紗
- 紗袷せ(しゃあわせ):絽・紗の上に紗を重ねて織った生地
- 二重紗(にじゅうしゃ):表と裏を一緒に織った生地
- 紗無双(しゃむそう):紗を重ねて織った生地
紗も、着物だけでなく長襦袢や帯揚げ・羽織・夏用コートとして使われることがあります。
麻
麻は、植物の麻から作られた着物の生地です。
肌触りがさらっとしており、肌にまとわりつかないため真夏でも快適に着ることができます。
家庭で洗えるため使い勝手も良いです。その一方で、シワが付きやすくごわつきやすいといったマイナス面も持ち合わせています。
このような特徴を持つ麻の生地には「縮(ちぢみ)」と「上布(じょうふ)」2種類があります。
1つずつ詳細を見ていきましょう。
縮
縮(ちぢみ)は、よこ糸に強いよりをかけて織りあげた後、表面を縮ませてシボを作った着物の生地です。
シボとは生地表面にあらわれる凹凸のことで、シボがあることで生地が肌に貼りつきづらくなります。
代表的なものは「小千谷縮」で、国の重要無形文化財に指定されています。
しかし、基本的には縮は上布よりも安価で手に入りやすいのが特徴です。
上布
上布(じょうふ)は、上質で細い麻糸を平織りした質の高い着物の生地です。冷たくさらっとした肌触りをしています。
かつては幕府に上納されていた高級品で、いま現在も価値が高いです。
種類としては、越後上布や近江上布・能登上布などがあります。
夏の着物を着る場面・時期
夏の着物である「絽・紗・麻」の着る場面や時期について解説していきます。
絽を着る場面・時期
絽は留袖(とめそで)や振袖・訪問着・付け下げ・小紋(こもん)に使われることが多く、主にフォーマルな場面で着ます。結婚式やお茶会・お宮参りでの着用に適しているでしょう。
着る時期としては、一般的に6月下旬から9月上旬までが一般的です。
紗を着る場面・時期
紗はカジュアル~セミフォーマルな場面に適しています。
絽よりも格が低いため、格式張った場面には合いません。
ちょっとしたお出かけや、友人とのお食事会に着ていくのが良いでしょう。
また、紗は生地が薄く清涼感があるため、7月・8月の真夏に着るのが一般的とされています。
麻を着る場面・時期
麻はカジュアルな場面のみで着用します。どんなに費用や価値が高くても、フォーマルな場面で着ることはありません。
普段着やおしゃれ着として楽しんでください。
時期としては、7月・8月の着用が適しています。
夏の着物に合わせる長襦袢
夏の着物に合わせる長襦袢(ながじゅばん)は、以下の4ポイントを参考に選びましょう。
- 麻の長襦袢がおすすめ
- 家庭で洗濯できる長襦袢が便利
- 着物との色合いを意識する
- 一部式の長襦袢が好ましい
1点ずつ詳しく説明します。
麻の長襦袢がおすすめ
夏は麻の長襦袢を着るのがおすすめです。
麻は吸汗性と発汗性・速乾性に優れており、汗のベタつきを感じづらいからです。
生地が肌にまとわりつかないため、涼しさを感じやすくなっています。
家庭で簡単に洗えるので、ニオイやシミも気になりません。
ただし、敏感肌の方は麻のゴワゴワ感が気になり肌荒れにつながる可能性があるので、絹の長襦袢を選んだほうが良いかもしれません。
家庭で洗濯できる長襦袢が便利
夏は汗をかきますから、汗・皮脂汚れやニオイを無くすためには洗濯が必要になります。
家庭で簡単に洗濯できる長襦袢を選ぶと便利でしょう。
洗濯不可の長襦袢は、着るたびにクリーニングに出さなければいけません。自宅で洗濯すると、縮んだりシワがついたりしてしまいます。
長襦袢が縮むとサイズが合わなくなり着ることができなくなってしまいます。
また、夏の着物は透け感があるため、長襦袢にシワがついていると不格好です。
ということで、夏の長襦袢を選ぶ際は、洗濯の表示を確認するようにしましょう。
着物との色合いを意識する
夏の着物は透けるため、下に着る長襦袢との色合いを意識するとおしゃれです。
同じ白の着物を着たとしても、長襦袢の色によって与える印象は大きく変化します。
長襦袢が寒色系であれば涼しげな印象を、暖色系であればハツラツとした印象を与えられるでしょう。
柄の付いた長襦袢を着るのもおしゃれです。
例えば、青系の着物に金魚柄の長襦袢を合わせると、水の中で金魚が泳いでいるように見えて風情があります。
このように、夏の着物は長襦袢にこだわることでおしゃれを楽しめます。
一部式の長襦袢が好ましい
夏の着物に合わせる長襦袢は一部式のものを選ぶと良いでしょう。
二部式の長襦袢だと、腰の切り替え部分が透けて見えてしまい、美しさに欠けます。
一部式の長襦袢を合わせて、着物をきれいに着こなしてください。
夏の着物に合わせる帯
夏の着物に合わせる帯は、以下の4つが主流です。
- 絽(ろ)
- 紗(しゃ)
- 麻(あさ)
- 羅(ら)
1つずつ詳細を説明します。
絽
からみ織と平織という技法を混ぜ合わせて織られた帯で、縦縞模様が入っているように見えます。
絽の帯は絽の着物に合わせるのが基本です。
紗
二本のたて糸に対してよこ糸一本ずつを絡めて織られた帯で、格子柄が入っているように見えます。
基本的には紗の着物に合わせます。
麻
植物の麻から作られた帯で、通気性の良さが特徴的です。
麻の着物や浴衣に合わせることが多いです。
質感が硬めなので、初心者の方でも簡単にお太鼓を作れます。
羅
羅は、複雑に絡ませた4本のたて糸の間に、よこ糸をまっすぐ通して織られた帯です。
ひし形の模様が入っているように見えます。
織り方によって、カジュアル~フォーマルまでどんな場面にも合わせられます。
夏の着物に合わせる帯締め・帯揚げ
夏は、レースの帯締めを締めると清涼感があり好ましいです。
帯揚げは、通気性の良い絽・紗・麻の生地を選ぶと良いでしょう。
色はどちらも淡い色合いのものが多く用意されています。
とはいえ、「これが夏用」とルールが決められているわけではありません。
着物に合う色・柄の帯締めや帯揚げを選んで、夏のコーディネートを楽しんでください。
夏の着物に合わせる草履
夏の着物には、麻の草履(ぞうり)を合わせることが多いです。
パナマ草やペーパーヤーン・ラフィアの草履もおすすめです。
どれも通気性や吸汗性に優れているため、蒸れることなく快適に履けます。
夏の着物に合わせるバッグ
夏の着物には、竹製のかごバッグや絽・紗・麻のバッグが合います。
がま口バッグを合わせる方も多いです。
まとめ
本記事の内容をまとめるとこのようになります。
- 絽は、6月下旬から9月上旬に着るフォーマルな高い薄物
- 紗は、7月・8月の真夏に着るセミフォーマルな薄物
- 麻は、7月・8月の真夏に着るカジュアルな薄物
- 夏は洗濯可能な麻の一部式長襦袢を合わせると良い
- 夏の着物は透けるので、長襦袢との着物との色合いを意識するとおしゃれ
- 夏の着物には、絽・紗・麻・羅の帯を合わせるのが基本
- 夏はレースの帯締めを締めると清涼感があり好ましい
- 夏の帯揚げは、通気性の良い絽・紗・麻の生地を選ぶと良い
- 夏の着物には、麻やパナマ草・ペーパーヤーン・ラフィアの草履が合う
- 夏は、竹製のかごバッグや絽・紗・麻のバッグを持つと良い
本記事の内容を参考に、夏の着物を楽しんでみてください。この記事が、夏の着物について知りたい方の参考になれば幸いです。
夏の着物を自分で着てみたい方は、着付け教室でプロの講師から習うことも検討すると良いでしょう。以下の記事で初心者にお勧めの着付け教室を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。