日本料亭での会食やお茶会など、着物時に正座をする機会は意外と多いです。
正しい正座の仕方を知らないと、裾が膨らんで不格好に見えたり、着崩れたりしてしまう可能性があります。周囲から奇異な目で見られないため、また着崩れを防ぐためにも、正しく正座ができることは非常に重要です。
本記事では、着物時の正座の方法を詳しく解説します。着崩れてしまった場合の対処法もお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
着物時の正座の仕方
着物時の正座の仕方にはコツがあります。コツさえ理解すればきれいに正座ができるようになり、着崩れは起きません。周囲から奇異な目で見られることもないでしょう。
早速、正座をするとき・立つときのポイントをそれぞれ紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
正座をするとき
着物で正座をするときの流れは、次のようになります。
- 右足を半歩後ろに引きます
- 右手で上前(うわまえ)(※)を軽く引き上げます
- 左手で上前の太もも部分を押さえながら、腰を落とします
- 右手で上前の裾を膝の下に入れながら、膝をつきます
- 両膝を少し上げて、右手で裾の乱れを直します
- 座り終えたら、両袖を膝の上に置きます
※上前:着物を着た際に上に重なる部分(左襟をはじめとした着物の左部分全体)。
座布団がある場合は、一度座布団の下座側で上記の動作を終えてください。その後、膝とつま先を使って、片足ずつ座布団の上に移動します。座布団の上に体を移動させ終えたら、裾の乱れを直して完了です。
正座から立つとき
正座をしたあとは、きれいに立ち上がる必要があります。正座から立つ流れは以下の通りです。
- 両つま先を立て、かかとの上にお尻を乗せます
- 右手で上前の太もも部分を軽く押さえます
- 片足を少し前にずらし、そのまま立ち上がります
- 立ち上がった後は、両足を揃えます
体の軸を意識しながら立ち上がるのがポイントです。左右にゆらゆらと揺れてしまうと不格好なので、真っ直ぐ立ち上がれるように練習してみてください。
正座が必要なときの着付け方
正座することが事前に分かっている場合は、上前を通常よりも2~3cmほど深めに合わせましょう。上前が開きにくくなり、正座をしても着崩れる心配がありません。
なお、正座をする際の着付けの方法については着付け教室で学ぶことができます。より実践的な着付けを学びたい方は、教室でプロから教わると良いでしょう。
正座で着崩れてしまった場合
正座をして着物が着崩れてしまった場合は、きれいに整え直す必要があります。
部位別の対処法を紹介しますので、手順通りに整えてみてください。
裾が着崩れてしまった場合
正座の立ち座りを繰り返すと、裾が開いたり長くなったりしやすいです。次のようにして着崩れを直しましょう。
- 右手で上前を持ち、元あった位置に戻します
- 戻した際に余った生地を、おはしょり(※)の下にある腰紐に挟みます
※おはしょり
衿元が着崩れてしまった場合
衿が緩んではだける・左右の衿がズレる・衿元が浮くなど、衿元が着崩れるとだらしない印象です。次の手順で着崩れを直しましょう。
- 左手を、左側の身八つ口(※)に入れます
- 右側の衿先をつまみ、身八つ口から引っ張って整えます
- 左側の襟は、右脇のおはしょりを引っ張って整えます
※身八つ口
帯が下がってしまった場合
帯が下がってしまった場合は、以下の手順で着崩れを直しましょう。
- 両手を帯の下に入れ、帯を上に持ち上げます
- 帯を両手で上から持ち直します
- 帯を、元あった位置に引き上げて整えます
- 帯の緩みが気になる場合は、帯の下にタオルを挟んで隙間を埋めます
上記のような着崩れが起きた場合の対処法は、着付け教室で実践的に学ぶこともできます。生活に活かせる着付けを本格的に学んでみてはいかがでしょうか。
着物時の立ち振る舞いで気をつけるポイント
正座以外にも、着物時に立ち振る舞いで気をつけるべき場面は多々あります。
今回は、以下の場面での立ち振る舞いのポイントを解説します。
- 椅子に座る
- 歩く
- 階段を上る・下る
- 車に乗る・降りる
- 食事をする
- お手洗いをする
- 草履を履く・脱ぐ
- 手を挙げる
椅子に座る
着物で椅子に座る際は、帯をつぶさないように気を付けてください。背にもたれかからず、浅めに座ればOKです。浅く座ると着物と椅子の接地面を減らせるため、着崩れも起きづらくなります。
また、椅子に座ると着物の裾が地面に触れる可能性があります。座る際は、裾を少し引き上げて膝の裏に入れ込みましょう。
着席後は、足を開いたりぶらぶらさせたりしてはいけません。両足をきちんと揃えて閉じるのがマナーです。
歩く
着物を着ているときは、普段よりも小股で歩くことが大切です。20~30cmの歩幅で歩きましょう。普段通りの歩幅で歩くと、裾が広がって着崩れてしまいます。
余裕のある方は、ゆっくり歩く・内股で歩くことも意識してください。着物姿が上品に見えます。
また、着物には草履を合わせることが多いですが、草履を履いているときは足裏全体を滑らせるようにして歩きましょう。草履が地面と平行になるように、足首を返さずに歩く「すり足」のイメージです。膝を高く上げて歩くと見栄えが悪くなってしまいます。
階段を上る・下る
階段を上る際は、右手で上前を少し引き上げながら軽く押さえて、一段ずつ小股で上りましょう。裾の広がりを抑えられるので、着崩れしづらくなります。
この際、上前を引き上げすぎて地肌が見えると不格好になるので注意してください。大股で上るのもNGです。裾が広がる原因になります。
階段を下る際は、体を斜めにして足元が見えるようにしましょう。安全に階段を下ることができます。かに歩きのように下れば、階段を踏み外す危険性も下がってさらに安心です。
上る時と同様、右手で上前を少し引き上げながら軽く押さえることも忘れてはいけません。
車に乗る・降りる
車に乗るときは、足ではなくお尻から入るのが鉄則です。足から入ろうとすると、大股を開くことになり着崩れしてしまいます。地肌が見え、美しさも損なってしまいます。
この前提を基に、具体的な車の乗り方を見ていきましょう。
- 車の入り口に背を向けて立ちます
- 右手で上前を軽く引き上げながら、車の座席に腰を下ろします
- 前の座席の背もたれやアシストグリップを掴み、体を安定させます
- 両足を揃えて地面から上げ、お尻を軸に体を90度回転させます
- 足が車の中に入れば完了です
車に乗った後は、帯が崩れないように注意してください。「椅子に座る」の章で説明した通りに座れば大丈夫です。また、車は天井が低いので、セットした髪が崩れないように気をつけましょう。
次に、車の降り方を説明します。
- 座席ギリギリまで体を前に出します
- 前の座席の背もたれやアシストグリップを掴み、体を安定させます
- 両足を揃えて地面から上げ、お尻を軸に体を90度回転させます
- 右手で上前を軽く引き上げながら、足を外に出して地面に付けます
- 腰を浮かせて、体ごと車の外に出ます
食事をする
着物に染みや汚れが付くと、きれいに落とすのが難しいです。食事の際は、食べこぼしなどによって汚れるリスクを防がなければなりません。
膝には必ず食事用ナプキンをかけましょう。タオルやハンカチでも代用できます。
また、食事中にテーブル上の物を取る際は、もう片方の手で袖口を押さえましょう。袂(たもと)に汚れが付く可能性を下げるためです。
さらに、帯への汚れの付着を防ぐために、テーブルと体との距離はこぶし1個分程度離して座ってください。
お手洗いに行く
お手洗いは最も着崩れしやすい場面です。手順は複雑ですが、丁寧に着物を扱いましょう。
- 袖を着物クリップでまとめます
- 裾を、着物→長襦袢→肌襦袢の順で1枚ずつ左右に分けます
- 裾をまとめてたくし上げます
- たくし上げた裾を固定します
- お手洗いに腰を下ろします
- 手順を遡り、すべて元通りに戻します
今回伝えた内容は大まかな方法になります。より具体的な手順を知りたい方は、「着物でのトイレに失敗しない方法を初心者向けに解説!」の記事をお読みください。お手洗いで着崩れない方法やコツを詳しく解説しています。
草履を履く・脱ぐ
草履を履く際のポイントは、足を滑らせるようにして差し込むことです。自然とちょうど良いポイントで止まります。かかとが1~2cmはみ出ている状態がベストですので、足を収めようとしてつま先を地面にトントンと当てるのは止めてください。草履が傷んでしまいます。
草履を履くのはこのように簡単ですが、脱ぐのは少々複雑になります。手順を見ていきましょう。
- 玄関の内側に体の正面を向けます
- つま先を上げ、足をかかとの方にずらしながら草履を脱ぎます
- 玄関に上がったら、体を横に向けながら正座します
- 草履の向きを反転させ、揃えます
草履は、つま先が玄関の外側を向くように置くのがマナーです。脱ぐ際はつま先が内側を向くので、必ず向きを反転させてください。
また、向きを反転させる際には、お出迎えしてくださる方に背中を向けてはいけません。この点も注意しましょう。
手を挙げる
つり革に掴まる・電話をする・タクシーを止める際など、手を挙げるシーンは意外と多いですよね。
このような場面で洋装時と同じように手を挙げると、袖が下がって腕が露出してしまいます。美しく見せるためには、もう片方の手で袖口を押さえるようにしましょう。
まとめ
本記事では、着物時の正座の仕方と着崩れた場合の対処法・基本的な立ち振る舞いのポイントについて解説しました。解説したポイントを押さえ、美しい所作で着物を着こなしましょう。
うまくいくか不安な方は、長襦袢や普段着着物で練習することをおすすめします。何度も練習すれば動きが身につき、自然と振る舞えるようになりますよ。
なお、練習がうまくできるか心配な方・やり方がよく分からない方はプロから直接教わる方が良いでしょう。以下の記事でおすすめの着付け教室を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。