着物について調べたり勉強していたりする中で、「辻が花」という種類を目にしたことはないでしょうか。
なんとなく見聞きしたことはあっても、具体的にどのようなものか分かっていない方もいるでしょう。
そこで本記事では、着物の辻が花についての基礎知識を徹底解説していきます。記事を最後まで読み、辻が花の知識を深めましょう。
着物の辻が花とは
辻が花とは、絞り染めの手法と描き絵・墨描き・刺繍・箔置きなどの伝統的な手法を組み合わせて作られた着物のことです。
辻が花で用いられる絞り染めの手法は、帽子絞りや桶絞り・縫い締め絞りなどが挙げられます。どの手法を使用するかは模様の出し方によって異なります。
さまざまな技法を用いて描き出される模様が特徴的で、「幻の染め」とも言われるほどです。
「辻が花」という名称は室町時代から呼ばれるようになったとされています。由来は明確に示されていませんが、「柄がつむじに似ていた」「“つつじ花”の呼ばれ方が変遷した」など、さまざまな考察が為されています。
着物の辻が花の魅力
「幻の染め」とも呼ばれるほど希少価値の高い辻が花ですが、その魅力はどこにあるのでしょうか。以下にまとめました。
- 高級感があり特別な気分になれる
- 伝統的な歴史が感じられる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
高級感があり特別な気分になれる
辻が花は高度な技法を組み合わせて絵模様が描き出されているため、非常に高級感があります。豪華かつ立体的に花柄が描かれた辻が花は、身に纏うだけで特別な気分になれるでしょう。
伝統的な歴史が感じられる
辻が花は、室町時代から名を残す伝統的な着物です。今人気を集めているような、モダンな着物とはまた違った魅力が感じられるのではないでしょうか。
流行に左右されない、伝統的な歴史あるデザインを感じられるのは辻が花の魅力です。
着物の辻が花の格と着ていけるシーン
辻が花の着物は、主に以下の5種類に分けられます。
- 振袖
- 留袖
- 訪問着
- 付け下げ
- 小紋
それぞれの格や特徴と、着ていけるシーンについて詳しく解説していきます。
振袖
近年、辻が花の振袖で成人式に参加する方が増えてきています。豪華に描かれた花の模様が、成人を祝うおめでたい場にぴったりです。辻が花は落ち着いた色合いのものが多いので、派手になりすぎず、大人らしい印象を演出することもできます。
振袖は未婚女性の第一礼装で、成人式の他、結婚式やパーティーなどにも着用していけます。
袖の長さによって、大振袖・中振袖・小振袖と分けられますが、いずれも格は高いものです。
留袖
留袖には、黒一色の生地に五つ紋が入っている「黒留袖」と、黒以外の生地でできた「色留袖」の2種類があります。
黒留袖は既婚女性の第一礼装で、着物として最高格です。色留袖は、紋の数によって格が変わります。五つ紋の場合は第一礼装として、三つ紋・一つ紋の場合は準礼装として着用します。
黒・もしくは黒以外の一色でできた生地に描かれる花柄は、豪華さが際立ち目を惹きます。流れるような花の模様は着る人の上品さを際立たせるでしょう。
訪問着
たくさんの場面で活躍する訪問着。準礼装の着物として、結婚式・式典といった格式高い場面から卒業式・七五三といったお子さまのイベント、そして同窓会や祝賀会といったセミフォーマルなシーンまで、幅広く着用していけます。
訪問着は着ていけるシーンが多いからこそ、辻が花のデザインも幅広く展開されています。好みの色・柄・デザインの辻が花を探してみると面白いかもしれません。
付け下げ
訪問着の次に格が高い付け下げは、略礼装として扱われます。袋帯と名古屋帯のどちらを締めるかによって着用シーンが変化します。袋帯を締めた場合は結婚式・卒業式といったフォーマルシーンに、名古屋帯を締めた場合は食事会や同窓会といったセミカジュアルシーンに着ていくことが可能です。
付け下げの大きな特徴は「左肩に入ったワンポイントの柄」ですが、辻が花ではその柄も風情溢れるものとなっています。ワンポイントですが非常に存在感があります。
小紋
小紋はカジュアルに日常使いできる着物です。着物全体に柄が入っています。
辻が花の小紋は、柄が大きなものから小さなものまであり、その違いを楽しめます。大きな柄はハツラツとした印象に、小さな柄は落ち着いた印象になるのが特徴です。
小紋は普段着として着られるので、場面に合わせてテイストを選ぶ必要がありません。好きな辻が花を自由に選んでみてください。
着物の辻が花の価格
着物の辻が花の販売価格は、着物の種類や生地・作者によって大きく異なります。相場としては、数十万から数百万程度です。
中古であれば、数万円~十数万円程度で購入することもできます。楽天やメルカリ・Yahoo!オークションなどをチェックしてみると良いでしょう。現物を見たい方は、呉服店や着物のリサイクルショップに足を運ぶのもおすすめです。
振袖や留袖など、着る機会が多くない着物であればレンタルするのも一つの手段です。
およそ数万円~十数万円で辻が花をレンタルできます。
また、最近では辻が花“風”の着物も多く出てきています。費用の問題で購入・レンタルがはばかられる場合は、辻が花“風”の着物をお手頃価格で楽しむのも良いでしょう。
着物の辻が花の洗い方
辻が花の着物は、正しく洗わないとシワや縮み・ほつれ等の原因となってしまいます。高級であるからこそ、洗う際は慎重になりたいところです。
以下に、素材別の洗い方をまとめました。
洗濯機 | 手洗い | 乾燥機 | 専門店でのクリーニング | |
---|---|---|---|---|
正絹 | × | × | × | 〇 |
木綿 | △ | 〇 | × | 〇 |
化学繊維 | 〇 | 〇 | × | 〇 |
ウール | △ | 〇 | × | 〇 |
麻 | △ | 〇 | × | 〇 |
正絹の着物は自宅で洗えないので、着物専門店にクリーニングを依頼しましょう。約1,000~5,000円で依頼できます。
自宅で洗える着物については、洗った後に10秒程度脱水し、若干水分を含んだ状態でハンガーに掛けて陰干ししてください。乾燥機はNGです。着物が縮んだり、シワになったりしてしまいます。
着物の辻が花の保管方法
辻が花の着物は、洗い方だけでなく保管方法も重要です。虫食いやカビなどが発生してしまうと、修繕に多大な費用がかかってしまいます。状態によっては、修繕できないものもあります。
辻が花を保管する際のポイントは以下の通りです。
- 虫干しを欠かさない
- 防虫剤を使用する
- 余裕を持って収納する
それぞれ詳しく説明します。
虫干しを欠かさない
辻が花の着物に虫食い穴ができた場合、かけつぎ・かけはぎといった手法で修繕を依頼する必要が生じます。
虫食いを防ぐために、虫干しと呼ばれるメンテナンスを半年に一度、必ず行いましょう。
虫干しの方法は、辻が花の着物を収納場所から取り出し、日の当たらない場所で一日間風を通すだけです。
着物を好む虫は湿度の高いところに集まるため、半年に一度虫干しをすることで被害を低減できます。同時に、湿度の高さが原因となるカビの発生も抑制できます。
防虫剤を使用する
防虫剤を使用するかどうかで虫食いの発生率は大きく変わります。クローゼットやタンスなど、着物を収納する場所には必ず防虫剤を入れておきましょう。
注意点として、防虫剤が直接着物に触れると変色の原因となるので、たとう紙の上から使用するようにしてください。
また、種類の異なる防虫剤を同時に使用したり、乾燥剤・除湿剤を併用したりすると、辻が花の着物が変色してしまう可能性があるので注意してください。
余裕を持って収納する
辻が花の着物を収納する際は、スペースに余裕を持ちましょう。
詰め込んで収納してしまうと、折り目やシワがついてしまい、せっかくの美しい辻が花が安っぽく見えてしまいます。
また、詰め込むことによって収納場所の湿度が上がり、虫食いやカビの原因にもなりかねません。上下左右に3cm程度の余裕を持って収納するのがおすすめです。
着物の辻が花の歴史
着物の辻が花は、室町時代に発祥してから安土桃山時代まで流行しました。
元々は女性や若衆の着物として発祥しましたが、安土桃山時代には男性の衣服として発展していった歴史があります。
しかし、江戸時代になるとその他の染色手法が主流になっていき、辻が花は衰退してしまいました。そしてついには、技法を継ぐ者がいなくなってしまいました。辻が花が「幻の染め」と呼ばれるのはその所以です。
こうして姿を消してしまった辻が花ですが、昭和時代になると、久保田一竹氏が「一竹辻が花」という新たな辻が花を生み出しました。
現代では、さまざまな着物職人が辻が花の歴史を紡ぐために尽力を続けています。
着物の辻が花のコーディネート
辻が花のコーディネートを、着物の種類別に3つ紹介していきます。デザインや小物選びの参考にしてみてください。
訪問着の辻が花
深い青色の生地に施された、立体的な花柄が豪華な印象のコーディネートです。金色・白色をはじめとした多くの色で描かれた模様からは、職人のこだわりや技法を感じられます。
小紋の辻が花
大小の花柄が描かれた、これぞ小紋というような辻が花です。模様自体は複雑ですが、色合いが落ち着いているため全体としては大人らしい印象です。
振袖の辻が花
振袖ならではの大きな袖に、大胆な花柄が描かれています。色使いの鮮やかさや立体感により、全身からおめでたさを感じることができます。着物や帯は豪華な一方、髪型はシンプルにまとめられており、そのコントラストが美しく際立っているコーディネートです。
まとめ
本記事では、着物の辻が花の基礎知識をひと通り解説してきました。辻が花に対する知識は深まったでしょうか。
記事内で紹介した種類やコーディネート例を参考に、着物の辻が花を楽しんでみてください。
辻が花についてもっと詳しく学びたい場合は、着付け教室でプロから学ぶのもおすすめです。以下の記事でおすすめの着付け教室を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。