本記事では、着物の銘仙についての基礎知識を徹底解説します。銘仙とは何かや、銘仙の種類・TPO・歴史などを網羅的に解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
着物の銘仙とは?
銘仙は、平織りの絹織物の一種です。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を意図的にずらして、色の境界をぼやけさせる「絣(かすり)」という手法で織られています。経糸の本数が多く緻密なことから、かつては目千や目専と表記されることもあったようです。
銘仙は、大正時代から昭和初期にかけて、女性の普段着として一般的に着用されていました。現在ではおしゃれ着として多くの年代から人気を集めています。
絣の手法で織られた銘仙の独特な風合いや、普段着として愛用されていた時代背景から、銘仙はアンティーク着物と呼ばれることも少なくありません。
また、銘仙はかつては全国各地で仕立てられていましたが、現在は、足利(栃木)・秩父(埼玉)・桐生(群馬)・伊勢崎(群馬)・八王子(東京)の5箇所でしか作られていません。
各地で仕立てられる銘仙の種類については以下で詳しく解説していきます。
着物の銘仙の種類
着物の銘仙の種類は、産地によって以下の5つに分けられます。現在、銘仙を仕立てているのはこちらの5箇所のみとなっています。
- 足利銘仙
- 秩父銘仙
- 桐生銘仙
- 伊勢崎銘仙
- 八王子銘仙
各種類について詳しく解説していきます。
足利銘仙
足利銘仙は、栃木県の足利市で作られる銘仙です。素材には足利産の絹を用いています。
江戸時代中期に生まれたとされている足利銘仙は、養蚕が盛んであったこと・生産方法に秀でていたことから、かつては日本一の生産高を誇りました。
足利銘仙は、銘仙のデザイン性を上げたきっかけとなる「ほぐし絣」の手法を生み出したとも言われています。ほぐし絣とは、経糸を並べて仮織りした後に柄を型染めし、緯糸をほぐし抜きした上で再び本織りする手法のことです。こうして出来上がった柄は、鮮やかでありながらも柔らかい印象となっています。
秩父銘仙
秩父銘仙は、埼玉県の秩父市で作られる銘仙です。裏表で同じように染色する「ほぐし捺染」と呼ばれる手法が用いられています。ほぐし捺染は、秩父出身の坂本宗太郎氏によって編み出された手法で、明治41年には特許を取得しています。
ほぐし捺染の手法で作られた秩父銘仙は、その表面に玉虫色の光沢があらわれるのが特徴です。また、草木の柄が多いことでも知られています。
このような特徴を持つ秩父銘仙は、平成25年には伝統的工芸品に指定されました。国から認められた独自の技法によって、普段使いしやすいデザインを編み出しているのが秩父銘仙だと言えます。
桐生銘仙
群馬県の桐生市で製造されているのが桐生銘仙です。桐生銘仙は「西の西陣、東の桐生」とも言われるほどで、西陣織と並ぶクオリティの高さを誇っています。その技術力の高さから、細かな柄を描き出している点が特徴です。
他と比べると生産量は少ないですが、質の高さに多くの人気が集まっています。
伊勢崎銘仙
伊勢崎銘仙は、群馬県の伊勢崎市で作られる銘仙です。伊勢崎銘仙には「併用絣」という難易度の高い手法が用いられています。併用絣とは、経糸と緯糸をそれぞれ型紙で捺染した上で織り上げる手法のことで、他の産地では見られない製造方法です。
複雑な方法で製造された伊勢崎銘仙は色鮮やかで柄も大胆なものが多くなっています。ただし、製造の難しさから後継者の育成に苦慮しているといった課題も抱えています。
八王子銘仙
かつて八王子で作られていた銘仙が八王子銘仙です。現在は八王子銘仙の製造はされていません。
八王子銘仙の最大の特徴は「カピタン織」と呼ばれる技法です。経糸に染糸を、緯糸に白糸を織り込む技法のことで、ドビー織とも言われます。カピタン織によって生まれる、凹凸のある地紋が八王子銘仙ならではの風合いを持ち合わせています。
現在カピタン織の技法は銘仙には用いられていませんが、ネクタイや小物の製造には使われており、別の形で文化が引き継がれているようです。
ちなみにカピタンとは船長を表す単語のことで、オランダの船長が持ち込んだ技法であることが名称の由来となっています。
着物の銘仙のTPO
銘仙はおしゃれ着・街着としての着物なので、友人とのお出かけや食事といったカジュアルな場に適しています。
反対に、フォーマルな場には向きません。結婚式や式典をはじめとした、格式高い場面には着ていかないようにしましょう。
また、銘仙を着る際のポイントとして柄が挙げられます。銘仙には、季節によって合う柄とそうでないものがあります。秋に桜柄が適さないように、季節ごとに適した柄があるので、銘仙を選ぶ際は意識してみてください。もちろん通年で着用できる柄もあります。
着物の銘仙の歴史
銘仙は、幕末の1800年頃に誕生したと言われています。養蚕農家の織子が、くず糸を用いて自らの着物を織ったことが銘仙の始まりとされています。
くず糸で織られた着物は軽くて安価なことから庶民に広がっていき、一般的に着用されるようになりました。ただ、当時の銘仙は見た目が素朴であったことから人気を博していたわけではありません。
そこで生み出されたのがほぐし絣という技法です。ほぐし絣を用いることで色・柄ともに表現できる幅が広がり、銘仙のデザイン性は上がりました。
デザイン性の向上によって銘仙はますます需要が高まり、大正時代には人気のピークを迎えました。
第二次世界大戦後に洋服の文化が流入してからは需要が徐々に減っていき、普段着として着用されることは減りましたが、今でも銘仙はアンティーク着物として根強い人気を誇っています。
着物の銘仙のコーディネート
参考となる銘仙のコーディネートを、種類別に紹介します。どう着こなせば良いか分からない方はぜひチェックしてみてください。
水玉模様の足利銘仙コーディネート
水玉模様が描かれた、単衣の足利銘仙のコーディネートです。足利銘仙らしく、水玉模様の境界線がぼやけており柔らかい印象となっています。
金魚柄の帯、そしてかごバッグ・麦わら帽と合わせることで涼しげな印象を演出できている点が本コーディネートの大きな特徴です。
厚さを迎える夏前や、夏本番の着こなしとして、ぜひ参考にしてみてください。
大胆な草木柄の秩父銘仙コーディネート
紫地に大胆な草木柄が描かれた秩父銘仙のコーディネートです。生地は透け感がありながらも光沢を放っており、秩父銘仙の良さが存分にあらわれたものとなっています。
帯は赤色・帯揚げは橙色といったように、着物とは反対色の小物を用いている点も本コーディネートの特筆すべき点です。反対色の小物を用いることで全体が引き締まって見えるようになります。アクセントとして豪華さをプラスするような役割も持ち合わせています。
秩父銘仙を華やかに着こなしたい方の参考となるコーディネートです。
ビビッドカラーの桐生銘仙コーディネート
ビビッドカラーの水色に、赤色の花柄がハッキリと映えている桐生銘仙を用いたコーディネートです。一見シンプルな柄に見えますが、細部まで見ると桐生銘仙らしい柄の精巧さに気付くことができます。
本コーディネートは着物が派手な分、帯は控えめでシンプルなものを合わせている点がポイントです。ここでデザインの主張が強い帯を使用してしまうと、全体としてのまとまりが失われてしまう可能性がありますが、落ち着いたものを合わせることで統一感を生み出しています。
また、帯締めは着物とリンクするビビッドカラーの水色を用いています。多くの色を使いすぎていないことが、豪華ながらに大人らしさを感じさせる要因となっているのでしょう。
豪華な花柄の伊勢崎銘仙コーディネート
薔薇やその他の花が全体に散りばめられている伊勢崎銘仙のコーディネートです。
色鮮やかで大胆な柄ですが、どこか上品さを感じるのは伊勢崎銘仙の難しい製造方法によるものでしょう。柄のかすれ方が非常に銘仙らしく魅力的です。
こちらのコーディネートでは、帯揚げに黒のレースを、半襟に黒のリボンを用いています。また、帯留めには赤いハート、首元には赤のネックレスを取り入れています。
和と洋をうまく織り交ぜたコーディネートで、普段着に遊びを持たせたい方の参考になるのではないでしょうか。
和洋折衷の八王子銘仙コーディネート
朱色ベースに白い薔薇が大きく描かれた八王子銘仙のコーディネートです。よく見ると八王子銘仙ならではの、カピタン織による凹凸が確認できます。
白い薔薇自体が洋の要素を持ち合わせていますが、加えてマゼンダピンクのベレー帽とハイヒールを合わせることで、大正ロマンな和洋折衷の雰囲気を演出しています。
また、ハイネックのインナーと帯・帯留めには暗色を取り入れているため、シックな大人らしさも感じられます。
一口に着物と言っても、コーディネートの楽しみ方は幅広くさまざまです。着物を洋風に着こなしたい方はぜひこちらのコーディネートを参考にしてみてください。
まとめ
本記事では、着物の銘仙とは何かについて解説してきました。本記事の内容をまとめると以下のようになります。
- 銘仙は、平織りの絹織物の一種で、絣という手法で織られている
- 銘仙には足利銘仙・伊勢崎銘仙・秩父銘仙・桐生銘仙・八王子銘仙の5種類がある
- 足利銘仙はほぐし絣の元祖であり、鮮やかで柔らかいデザインが特徴
- 秩父銘仙はほぐし捺染の手法を用いており、玉虫色の光沢と草木の柄が特徴
- 桐生銘仙は技術力が高く、細かな柄を描き出している点が特徴
- 伊勢崎銘仙は、併用絣の手法で描かれた色鮮やかで柄が特徴
- 八王子銘仙は、カピタン織によって生み出される凹凸の地紋が特徴
- 銘仙はおしゃれ着・街着なので、カジュアルシーンに適している
本記事を読み、着物の銘仙についての理解は深まったでしょうか。銘仙を着こなしてみたい方は、着付け教室に通って習うのがおすすめです。以下の記事でおすすめの着付け教室を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。