着物の「末広」というものを聞いたことはあっても、どういったものか説明できる方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、着物の末広における基礎知識を徹底解説します。末広の役割や使い方・注意点を一つずつわかりやすく説明していくので、ぜひ参考にしてください。
着物の末広とは
末広とは、主に結婚式で黒留袖を着用する際に使うもので、扇子の一種です。帯に挿してあるところを見たことがある方も多いのではないでしょうか。
扇子の形状が末広がりになっていること、また幸せが末広がりに続きますようにという想いから「末広」と呼ばれるようになりました。おめでたい場面で使用されることが多い点から、祝儀扇(しゅうぎせん)と呼ばれることもあります。
女性用の末広は、骨が黒の漆塗りで、地紙が金色もしくは銀色のものが多いです。
一方で男性用の末広は、骨が竹骨で、地紙が白色となっています。男性用の末広は、和装で結婚式を行う場合に新郎が用いるケースがあります。
着物の末広の使い方
末広は、基本的には帯に挿したままですが、立礼をする時・集合写真を撮影する時・参列客のお出迎えやお見送りをする時には、手に持って使用します。
結婚式というおめでたい場面でマナー違反にならないよう、正しい挿し方・持ち方を覚えておきましょう。
末広の挿し方
まずは、末広を挿す際の向きと面を確認しておきましょう。
- 末広の開く側を上にする
- 金色の面が見えるようにする
上記を踏まえた上で、次は末広の挿し方を解説していきます。
- 左胸(自分から見て左側)の、帯と帯揚げの間に末広を挿す
- 末広が2~3cm見える高さになるよう調節する
- 完成
末広を着物と帯揚げの間に挿すことはマナー違反です。一度末広を手に持った後、挿し直す際には注意してください。
なお、末広を挿す際は真下に降ろすよりも、斜めに傾けて入れた方がスムーズかつ目立ちません。式中に戸惑わないよう練習しておくと良いでしょう。
末広の持ち方
末広は、立礼をする時・集合写真を撮影する時・参列客のお出迎えやお見送りをする時に手に持って使います。持ち方は以下の通りです。
- 金色の面が見えるようにする
- 右手で末広の根元を持つ
- 左手は末広を下から支えるようにして添える
- 末広を持つ高さは帯の少し下にする
末広の根元を持つ右手は、人差し指を塗りの部分に沿わせ、それ以外の4本で胴を優しく包み込むことがポイントです。
腰を掛けたまま集合写真を撮る場合、末広は膝の上で持ちます。持ち方のポイントは上記で解説したものと変わりありません。
着物の末広の注意点
末広には、絶対にしてはいけないNG行為があります。それが、「扇ぐこと」です。
末広は結婚式を始めとしたお祝い事の場で、お礼の気持ちを示すために身につける物です。よって、涼を取るために末広を扇ぐことはマナー違反となります。見る人によっては、新郎新婦の晴れ舞台に泥を塗ることになりかねないため気をつけてください。
末広に合わせる黒留袖のマナー
末広は基本的に、黒留袖に合わせて使います。ここでは、そんな黒留袖のマナーについて解説していきます。柄の選び方や小物との合わせ方を紹介するのでぜひ参考にしてみてください。
黒留袖の柄の選び方
黒留袖に描かれている柄は、下記の通りおめでたいものがほとんどです。
- 夫婦円満:千鳥、鉄線、貝桶など
- 子孫繁栄:葡萄、梅、柏、藤、雉など
- 不老長寿:鶴、亀、松竹梅、宝尽くし、牡丹など
よって、どの柄を選んでも基本的には問題ありません。
柄を選ぶコツとしては、絵羽模様の大きさが挙げられます。黒留袖に描かれている絵羽模様は、広がっているほど若い印象になります。40~50代以降からは、絵羽模様の広がりが狭めの黒留袖を選ぶと良いでしょう。
黒留袖に合わせる帯
黒留袖には、袋帯もしくは丸帯を合わせましょう。
袋帯の場合は、特に格の高い唐織(からおり)・錦織(にしきおり)・綴織(つづれおり)や、金糸を地としたものを選ぶと、黒留袖と格が揃います。柄は吉祥文様・有職文様・正倉院文様がおすすめです。
帯結びは二重太鼓にするのがマナーです。“喜びや幸せが重なりますように”という想いを伝えられます。
二重太鼓の結び方は以下の記事で1ステップずつ詳しく解説しているので、結婚式当日に自分で着付けをする予定の方はぜひ参考にしてください。
黒留袖に合わせる帯揚げ・帯締め
黒留袖には、白色の帯揚げ・帯締めを合わせます。白地に金や銀が組み込まれているものを選びましょう。
帯揚げは、総絞りが適しています。帯締めは、しっかりとした太さのある平打ちがおすすめです。
黒留袖は最高格の着物なので、小物も格の高さを揃えましょう。
なお、帯揚げや帯締めについての基礎知識は以下の記事でそれぞれ詳しく紹介しています。ぜひあわせてお読みください。
黒留袖に合わせる長襦袢・半襟
黒留袖に合わせる長襦袢と半襟は、ルールとして“白色で無地”と決まっています。少しでも柄や色が入っているものはマナー違反となるので、選んではいけません。
長襦袢や半襟についての詳細は、下記の記事で紹介しているので、ぜひチェックしてください。
黒留袖に合わせる草履
留袖には、高さ5~7cmの礼装用の草履を合わせましょう。
色は金・銀もしくは白地が適切です。素材は唐織や綴織がおすすめです。高級感があり、黒留袖によく似合います。
なお、黒留袖に合わせる草履は、台と鼻緒が同色・同素材のものを選ぶことがポイントです。それぞれ色や素材が異なる草履は選ばないようにしてください。
草履についての詳細は以下記事で解説しています。礼装用の草履の選び方についてより詳しく知りたい方は参考にしてみてください。
黒留袖に合わせるバッグ
黒留袖には礼装用バッグを合わせます。色は金・銀・白色ベースで、素材は草履と揃えるのが一般的です。
バッグは小ぶりなサイズを用いた方が良いので、荷物が多い場合はサブバッグを用意しておきましょう。
以下の記事では、礼装用バッグの種類や特徴を詳しく解説しています。黒留袖に合わせるバッグを迷っている方におすすめの記事です。
黒留袖にアクセサリーは合わせて良い?
黒留袖には、合わせて良いアクセサリーとそうでないものがあります。基本的にはアクセサリーは外しておく方が無難ですが、付けたい方は以下を参考にしてください。
アクセサリーの種類 | 備考 |
---|---|
ピアス | 付けて良い。小ぶりな白い真珠のピアスがおすすめ。垂れ下がるピアスは着物を傷つける可能性があるため避ける。 |
指輪 | 結婚指輪や婚約指輪は付けて良い。平らでシンプルな指輪もOK。装飾が派手な指輪は袖口に引っかかる可能性があるので避けるべき。 |
ネックレス | 付けない。生地を傷つける可能性があるほか、黒留袖の良さが損なわれてしまう。 |
腕時計 | 時間を気にしているように見られるため結婚式には向かない。付けたい場合は小ぶりで肌に馴染むデザインを推奨。袖に引っかかる可能性があるので注意。 |
着物とアクセサリーの合わせ方については以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてお読みてください。
着物の末広に関するよくある質問
着物の末広に関するよくある質問をまとめました。
※タップで質問の回答に飛べます。
結婚式以外で着物の末広を使う場面はある?
末広は結婚式の場以外で使用しても問題ありません。例えば式典や祝賀会、または子どもの入学式・卒業式などは、末広を使うシーンとして想定できます。
結婚式で黒留袖を着る場合は末広が必須アイテムとなりますが、上記の場合は任意なので、使いたい方のみ用意すれば良いでしょう。
結婚式に参列する際、黒留袖に末広を合わせなくても良い?
結婚式に黒留袖で参列する場合、末広は必ず用意しましょう。結婚式というおめでたい場を気持ちよく祝福するために、末広は欠かせません。
そもそも結婚式に黒留袖で参列するのは、新郎新婦の母親もしくは仲人といった、非常に親密な関係性にある方のみです。親族や友人の結婚式であれば、訪問着や色無地を着用することになるので、末広の有無について気にする必要はありません。
末広と扇子の違いは何?
末広と扇子の最大の違いは用途です。末広は、お祝いの気持ちを示すためのアイテムで、アクセサリーとしての役割が大きいです。よって、末広を広げたり扇いだりすることはありません。
一方で、扇子の用途は涼を取ることであり、広げたり扇いだりして使います。
用途だけでなく見た目の違いもあります。末広の見た目は、骨が黒色で、地紙が金色・銀色と格式高く豪華です。反対に、扇子は骨・地紙ともに自由なデザインが施されています。またサイズでも違いがあり、二者を並べると末広の方が若干小ぶりです。
まとめ
本記事では、着物の末広についての基礎知識を徹底解説してきました。あらためて記事の内容をまとめると以下のようになります。
- 末広とは、主に結婚式で黒留袖を着用する際に使うもので、扇子の一種
- 末広を挿す際は、開く側を上・金色の面が見えるようにして、左胸の帯と帯揚げの間から2~3cm出るようにする
- 末広を持つ際は、金色の面が見えるようにして、右手で根元を包み、左手は下から支えるように添える
- 末広を広げたり扇いだりしてはいけない
記事を読んで、末広についての理解は深まったでしょうか。本記事が、着物の末広について知りたい方の参考になれば幸いです。
また、末広やその他小物のマナーや着付けの基礎を学びたい方に向けて、以下の記事ではおすすめの着付け教室を一覧で紹介しています。気になる方はぜひあわせてチェックしてください。