着物の種類について調べていると、「大島紬」という名前を目にすることが多いのではないでしょうか。
大島紬は日本の伝統的な着物の一種で、他とは異なる特徴があります。そこで本記事では、大島紬の特徴や染め方・柄・製造工程などについてひと通り紹介します。大島紬についての基礎知識を身に付けたい方は、ぜひ参考にしてください。
着物の大島紬とは
大島紬とは、鹿児島県の奄美大島や鹿児島市・宮崎県の都城市で作られる絹織物です。1300年以上の長い歴史を持っています。
大島紬と認定されるには以下の定義を満たしている必要があります。
- 絹100%である
- 平織りである
- 先染め手織りである
- 締め機(しめばた)を使って手作業で加工を行っている
- 手機(てばた)で織り上げている
複雑で綿密な工程を経て製造されるので、一つ完成するまでに一年程度かかることも少なくありません。
また、大島紬はフランスの「ゴブラン織」や、イランの「ペルシャ絨毯」に並んで世界三大織物の一つに数えられている、世界的に有名な織物でもあります。
大島紬の特徴
大島紬には、主に以下の特徴があります。
- 着心地が軽い
- 着るほどに身体に馴染む
- 生地が丈夫で長く着られる
- 色や柄が独特である
大島紬の重さは一反あたり約450gと非常に軽いため、着心地が軽やかです。重さや苦しさを感じづらくなっています。
着るほどに生地が身体に馴染み、着崩れしづらくなる点も特徴です。軽くて肌馴染みが良いので、着やすい着物として人気を集めています。
また、大島紬は生地が丈夫で長持ちすることでも知られています。親から子、子から孫へと代々継承している家庭はとても多いです。
さらに、大島紬は繊細な工程を経て製造されているため、色や柄にも特徴があります。大島紬といえば深い黒の色合いが有名ですが、他にもさまざまな染め方があり、色の展開も豊富です。
大島紬の主な染め方5種類
大島紬にはさまざまな染め方がありますが、今回は特に有名な5種類を紹介します。
- 泥大島紬
- 泥藍大島紬
- 草木染大島紬
- 色大島紬
- 白大島紬
それぞれ詳細を紹介していきます。
泥大島紬
大島紬の中でも知名度が高いのが「泥大島紬」です。泥大島紬とは、その名の通り泥に漬け込む染色方法です。
まずは糸をテーチ木の汁で染め、その後に泥に浸け込みます。テーチ木のタンニンが泥に反応することによって、黒色に染まっていく仕組みです。「テーチ木染め20回+泥染め1回」のサイクルを4回繰り返すことで泥大島紬が完成します。
泥大島紬は、最初は深い黒色をしていますが、数十年かけて茶褐色に経年変化していく点も特徴です。
泥藍大島紬
泥藍大島紬では、植物藍で染めた後に泥に漬け込んだ糸を、絣糸に使用します。地糸は泥染めです。全体的に深い黒色をしていますが、模様部分は藍色が目立ちます。
かつては藍染めのみで作られる「藍大島」も主流でしたが、色落ちが目立つことから今では製造規模が縮小されています。
草木染大島紬
テーチ木や植物藍以外の天然染料が用いられた大島紬を「草木染大島紬」と言います。
使用される植物は、マングローブ・ウコン・クチナシ・やまもも・タブノキ・ハゼノキ・フクギなどさまざまです。
使用される染料によって変わる風合いを楽しむことができます。
色大島紬
色大島紬は、化学染料で染めた大島紬です。化学染料を用いているので色持ちが良く、発色が鮮やかな点が特徴です。
天然染料では表現しづらい色の濃淡やグラデーションを表現できます。
白大島紬
白大島紬は、白い糸で模様を織りなす大島紬です。
白泥染めという技法を用いることもあれば、先染めの糸を後から脱色して白を表現することもあります。白泥染めをする際には、白薩摩と呼ばれる泥を用います。
天然染料だけではなく化学染料も用いる点が特徴です。
白大島紬の柄は白い糸で織りなされているため、繊細で儚げに見えます。
大島紬の主な柄3種類
大島紬は染め方だけでなく柄にも特徴があります。今回は、主な3つの柄を紹介します。
- 龍郷柄
- 西郷柄
- 秋名バラ柄
順番に詳しく見ていきましょう。
龍郷柄
大島紬を象徴する柄と言えば龍郷柄(たつごうがら)です。奄美大島の龍郷町で図案化されたことから龍郷柄と名付けられました。
龍郷柄は、奄美大島のソテツとハブをモチーフとした柄で、幾何学模様が織りなされています。
大島紬の柄は女性向け・男性向けと分かれているのが特徴ですが、龍郷柄は女性ものとなっています。
西郷柄
西郷柄は、格子の中に絣模様が織り込まれた複雑な柄です。遠目だと無地に見えますが、近づくと奥行きが感じられます。西郷柄は高い技術力を要する柄で、熟練の職人にしか表せないとも言われています。
「西郷柄」という名称は、薩摩藩の西郷隆盛が由来です。男性ものの柄ですが、近年は男性着物の需要自体が減少しており、西郷柄自体も衰退しつつあります。
秋名バラ柄
秋名バラ柄は、ザルをモチーフとした幾何学模様です。女性ものの柄で、格子と十文字が交差した模様が特徴的です。
この名称は、奄美大島の秋名地区で、生活用具の竹でザンバラというザルを編んでいたことに由来しています。
大島紬の製造工程
大島紬の製造工程を、15の手順に分けて紹介します。
1.企画・デザイン・設計
まずはコンセプトに基づいてデザインを企画し、それを原図に起こします。色や形などが具体的に決まったら、織物専用の方眼紙に設計図を書いていきます。
2.糸繰り
糸を下染めし、薄く糊付けしたら糸繰りをします。糸繰りとは、整経の準備として糸を木管やボビンなどに巻きあげる作業のことです。
3.整経
続いて行うのが整経です。糸繰りで繰った糸の、長さや本数を揃えます。この段階で、一反を織るのに必要な分量を揃えることになります。
4.糊張り
整経で糸をまとめたら、次は糊張りを行います。同じ模様となる糸を、糊で固める工程です。
大島紬においては、糊には「イギス」という奄美大島の海藻を用いるのが一般的です。
5.絣締め
糊が乾燥したら、絣締めの作業に移ります。絣締めとは、絣模様を正確に織り上げるために模様部分を固く織り込む作業のことです。締め機に木綿の縦糸を張り、横から絣となる絹糸を織り込みます。
絣締めは大島紬ならではの製造工程で、職人の技量が求められます。
6.染色
次に、絣締めによってできた絣筵(かすりむしろ)を染色します。
染色方法はさまざまで、泥染め・泥藍染めの他、天然染料や化学染料を用いたものがあります。
7.絣部分解き
続いては、染色した絣筵の木綿糸を切って解く作業です。木綿糸は、絹糸の染まってはいけない部分を保護する役割なので、ここで切って解き、絹糸の絣部分を露出させます。
8.すり込み
部分解きが終わったら、絣に染料をすり込みます。最初の図案に基づいて忠実に色を入れていく作業です。
9.全解
すり込みが終わった絣糸をすべて解く作業を「全解」と言います。木綿糸を取り除き、織られたものを糸に戻します。
10.上わく
解いた絹糸を一本ずつ枠に上げ、巻き取っていきます。
11.仕上糊張り
巻き取った糸を水で洗い、色止め処理を行います。その上で、絣糸が傷まないように糊付けをして保護します。
12.絣疋分け・オサ通し
絣糸が乾燥したら、絣疋分けを行います。絣疋分けとは、図案に併せて絣糸を配列し、ひと機分ずつに分ける作業です。
必要な糸の本数や場所を計算し、「オサ」と呼ばれる大島紬専門の織り具に通していきます。これがオサ通しです。
13.絣板巻き
ひと機分ずつに分けた絣糸の幅を揃え、板に巻き込んでいきます。
この絣板巻きの工程で、たて絣糸・たて地糸・よこ絣糸・よこ地糸の準備は完了です。
14.織り
いよいよ織りの作業です。織り機に糸をかけ、図案通りに丁寧に織り上げていきます。
数センチ織り上げるごとに「絣調整」と呼ばれるズレの修正を行うので、織り上げるまでに数ヶ月かかります。
15.検査
織り上げられた大島紬は検査に出されます。本場大島紬織物協同組合で、20項目以上にも及ぶ検査を受け、合格した物には組合の証紙が貼られます。
こうして厳正な検査に合格した大島紬が私たちの手元に届いているのです。
大島紬のコーディネート
大島紬の参考になるコーディネートを3つ紹介します。大島紬を着こなしたい方はぜひ参考にしてみてください。
泥大島紬のコーディネート
秋名バラ柄が施された泥大島紬のコーディネートです。
深い黒色の泥大島紬に、同じく暗色の帯を合わせています。帯揚げの水色が差し色として全体を引き締めており、大人らしい仕上がりを演出しています。
白大島紬のコーディネート
白大島紬に、紺色の八寸帯を合わせたコーディネートです。白だけでまとめると間延びした印象になりがちですが、帯のデザインでアクセントが加わることで白大島紬の良さが際立っています。
色大島紬のコーディネート
色大島紬には化学染料が用いられているので、泥大島紬や白大島紬よりも色鮮やかです。
さまざまな色で織りなされた幾何学模様のデザインを活かすよう、シンプルな八寸帯を合わせています。
まとめ
本記事では、大島紬の染め方や柄など、基本的な知識をひと通り解説してきました。大島紬についての理解は深まったでしょうか。記事内で紹介したコーディネート例も参考に、大島紬の着こなしを楽しんでみてください。
「大島紬についてより深く学びたい」「大島紬の着付けを習得してみたい」という方は、着付け教室で習うのもおすすめです。着付けのプロから直接勉強できるので、効率的にスキルやノウハウを身に付けられます。
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