着物の種類について勉強していると「友禅」という種類を目にする機会が多いでしょう。
しかし、友禅という言葉はなんとなく聞いたことがあっても、具体的にどのような着物なのかを知っている方は多くないかもしれません。
そこで本記事では、着物の友禅とはどのような種類かについて、初心者向けにわかりやすく解説します。友禅に用いられる技法や、三大友禅と呼ばれる着物の特徴や歴史などを紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
着物の友禅とは
友禅とは、友禅染めの技法で染色された着物のことを指します。
友禅染は、扇絵師「宮崎友禅斎」が江戸時代に考案した染色方法です。糊置防染法といって、糊を用いることで染料が混ざり合うことを防ぎ、鮮やかな模様を表現する方法を用いています。
友禅染めが広まった背景には奢侈禁止令があります。奢侈禁止令では、庶民の贅沢が制限され、金・銀の刺繍や総絞りといった豪華な着物が禁止されました。友禅染めはこの奢侈禁止令をかいくぐるような形で華やかな文様を描き出せたことから、庶民の中で流行するようになりました。
着物の友禅の技法
着物の友禅は、主に以下2つの技法で描き出されます。
- 手描き友禅
- 型友禅
それぞれ詳しく見ていきましょう。
手描き友禅
手描き友禅は、その名の通り手描きで染めていく友禅染めの手法です。糸目糊を使うのが特徴で、下絵に沿って糊を線のように置いていきます。
手描き友禅は、種類によりますが制作工程が10~25程度あり、すべて手作業でおこなうためいずれも高度な技術が必要です。よって、完成までに多くの時間を要します。
型友禅
型友禅は、型紙を使って染める友禅染めの手法です。色糊を用いて染め上げられます。
手描き友禅は一点物ですが、型友禅は型紙を使用するので、同じ着物を何着も制作できます。
型友禅は手描き友禅より制作工程自体は減りますが、柄や色の数だけ型紙が必要になるので、決して簡単な手法というわけではありません。時には100枚以上の型紙を使うこともあり、職人の技術力が必要となります。
また、今回紹介した「手描き友禅」「型友禅」の他、機械を用いた「機械捺染」やインクジェットプリンターによる「デジタル染め」といった手法も近年になって増えてきました。いずれも低コストかつ大量生産ができる手法です。
着物の三大友禅とは
着物には、三大友禅と呼ばれる下記の3種類があります。
- 京友禅
- 加賀友禅
- 東京友禅
下記で、それぞれの概要を紹介します。特徴や歴史などの詳細については後述しているので、ぜひ記事下部まで読み進めてください。
京友禅
京都で生まれた友禅染の着物を京友禅と呼びます。扇絵師「宮崎友禅斎」が江戸時代に考案した手法で、三大友禅の中でも最も長い歴史を持ちます。豪華で上品な見た目が特徴的です。
1976年には、経済産業省指定伝統的工芸品として指定されました。
加賀友禅
加賀友禅は、石川県金沢市で染められる友禅染めの着物です。宮崎友禅斎が金沢に身を寄せたことをきっかけに、梅染めの技法と融合して誕生しました。加賀五彩と呼ばれる5色のみで構成される、写実的な自然文様が特徴です。
1975年に、経済産業省指定伝統的工芸品として指定されました。
東京友禅
東京友禅は、東京(江戸)で誕生した友禅染めの着物です。江戸時代の参勤交代をきっかけに、江戸に多くの職人が集まったことから生まれた技法です。茶・白・藍などの渋い色味が用いられた、シックなデザインが特徴的です。
1980年に、経済産業省指定伝統的工芸品として指定されました。
京友禅の特徴・歴史
ここでは、京友禅の特徴と歴史を紹介していきます。京友禅について詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。
特徴
京友禅の特徴は、主に以下の通りです。
- 色使いが豊富
- 柄が上品
- 刺繍や箔が豪華
- 分業制で制作
それぞれ詳しく説明します。
色使いが豊富
京友禅は色の決まりがなく、多くの色を使うことで知られています。この豊富な色使いが鮮やかな文様を生み出しています。
柄が上品
京友禅は、自然文様だけでなく有識文様も使用されることが多いです。平安時代の公家社会を感じられる、伝統的な柄からは上品さが漂います。
刺繍や箔が豪華
京友禅には、刺繍や金・銀の箔があしらわれており、仕上がりが非常に豪華です。華やかな着こなしを楽しめます。
分業制で制作
京友禅は分業制で制作されています。一人で仕上げるのではなく、各工程に精通した職人が担当するのは京友禅の大きな特徴です。
歴史
京友禅は、扇絵師の「宮崎友禅斎」が扇絵の技法を着物に取り入れたことが始まりと言われています。宮崎友禅斎が扇絵師として人気を集めていたことから、技法はすぐに広まりました。
また、京都には水が豊富にあり、友禅における染色が行いやすかったことからも盛んに発展していきました。
特に京友禅が爆発的に庶民の間で流行するきっかけとなったのが、江戸時代の奢侈禁止令です。京友禅の技法は奢侈禁止令で禁じられている規則をかいくぐることができたため、着物を楽しむことができました。
明治時代に化学染料が導入されてからは、手描き友禅だけでなく型友禅の技術も発展し、より京友禅が大量生産されやすい環境となりました。
加賀友禅の特徴・歴史
ここでは、加賀友禅の特徴と歴史を紹介していきます。加賀友禅について詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。
特徴
加賀友禅の特徴は、下記の4つが挙げられます。
- 加賀五彩による染色
- 自然文様が多い
- 刺繍や箔による装飾がない
- すべて一人で制作
一点ずつ説明していきます。
加賀五彩による染色
加賀友禅は、加賀五彩といって、藍・臙脂(えんじ)・黄土・草・古代紫の5色を基調として染められます。この5色の濃淡で構成されているので、色彩としては沈んで見えます。
自然文様が多い
加賀友禅には自然文様が多いです。草花や蝶などが写実的に描かれています。
刺繍や箔による装飾がない
加賀友禅は、刺繍や箔による装飾を行いません。「虫食い」や「ぼかし」といった技法を用いてアクセントを付けています。細やかなデザインによる繊細さを感じられます。
すべて一人で制作
加賀友禅は京友禅とは異なり、すべての工程を一人で仕上げます。そのため、着物には作家による落款が押されます。加賀友禅の落款を検索できる専門のサイトもあり、見分ける際に活用可能です。
歴史
加賀友禅が誕生したのは、江戸時代中期です。友禅染めの発祥者である宮崎友禅斎が、京都から金沢の「太郎田屋」に身を寄せたことが誕生のきっかけです。15世紀より加賀で確立されていた、梅染めの技法と融合することで染色方法が確立されていきました。
また、加賀は工芸品の制作が盛んであったことから下絵の技術が発展しており、それが加賀友禅の写実的な自然文様が広がったとも考えられています。
現代では、多くの友禅が機械によって染色されるようになりましたが、加賀友禅は手作業の工程を残しているものが多くあります。
東京友禅の特徴・歴史
ここでは、東京友禅の特徴と歴史を紹介していきます。東京友禅について詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。
特徴
東京友禅にはこのような特徴があります。
- 渋い色味
- 侘び寂びのあるデザイン
- すべて一人で制作
順番に説明していきます。
渋い色味
東京友禅には、茶・白・藍など渋い色味が多く用いられます。京友禅や加賀友禅と比べると、シックな印象のものが多くなっています。
侘び寂びのあるデザイン
東京友禅は江戸の町人文化の影響を多く受けているので、デザインからは侘び寂びが感じられます。また、自然な風景を写実的に描いた者が多い点も特徴です。洗練されたデザインを楽しめます。
すべて一人で制作
東京友禅は加賀友禅と同様、制作工程はすべて一人の職人が担います。最も時間をかけるのは、下絵を描く前のモチーフ選びと図案です。その後は手作業で下絵を描き、完成まで一人の職人が一貫して制作します。
歴史
東京友禅は、徳川家康が江戸に幕府を開いてから広まりました。参勤交代で、多くの大名が染め師や絵師と共に江戸幕府に集まったことから、さまざまな技術が江戸に集結し、東京友禅が生み出されたとされています。
東京友禅は奢侈禁止令の影響を多大に受けており、他と比べても渋いデザインのものが多いですが、かえってそれが粋であると人気を集めたともされています。
1673年には日本橋に越後屋呉服店(現・日本橋三越)が開設され、その染物工場が神田川上流に建てられました。それを皮切りに、江戸にはより職人が集まるようになり、東京友禅は大きな発展を遂げていきました。
まとめ
本記事では、着物の友禅についての基礎知識を解説しました。改めて、三大友禅の特徴を以下にまとめます。
種類 | 発祥 | 特徴 |
---|---|---|
京友禅 | 京都 | ・色使いが豊富 ・柄が上品 ・刺繍や箔が豪華 ・分業制で制作 |
加賀友禅 | 加賀(石川県金沢市) | ・加賀五彩による染色 ・自然文様が多い ・刺繍や箔による装飾がない ・すべて一人で制作 |
東京友禅 | 東京(江戸) | ・渋い色味 ・侘び寂びのあるデザイン ・すべて一人で制作 |
三大友禅はいずれも、経済産業省指定伝統的工芸品に指定されている伝統的な着物です。特徴を理解した上で着こなし、普段の生活に彩りを加えましょう。
友禅の着付け方法やコーディネートを習得したい方は、教室で学ぶのがおすすめです。初心者向けの着付け教室は多くあり、じっくりと勉強できます。プロから直接技術を教われるので、友禅の魅力や着こなしを効果的に学べるでしょう。
以下の記事では、おすすめの着付け教室7選を全7項目で徹底比較しています。失敗しない教室の選び方なども解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。