「着物の“絞り”って何?」
「どうやって見分けたら良いの?」
本記事を開いたあなたは、上記のような疑問をお持ちではないでしょうか。絞りについてこのような疑問を持つ方は多くいらっしゃいます。
そこで本記事では、着物の“絞り”の基礎知識を徹底解説します。絞りの意味や技法・種類・着用シーンなどを詳細にお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
この記事で絞りの知識を深め、着物をより楽しめるようになりましょう。
着物の“絞り”とは
絞りとは、奈良時代から受け継がれてきた染色技法「絞り染め」で作られた着物のことです。東大寺の正倉院には、絞り染めで制作された当時の作品が所蔵されており、このことから非常に伝統的な技法であることが分かります。
では、絞り染めとは具体的にどんな技法なのかというと、大きく以下の3ステップに分けられます。
- 括り:生地を糸で括る・縫う・絞る・挟むなどする
- 染め分け:染める部分・染めない部分を分ける
- 染色:生地を染料に浸して染める
このようにして染色を終え、括りを外すと模様があらわれます。完成した模様には独特な凹凸があり、色合いは繊細で美しいです。
技法次第ですが、絞り染めの作業には数年かかることもあるため、絞りの着物は非常に高級なものが多くなっています。
では、絞り染めの技法にはどのような種類があるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
絞りの着物の技法
絞りの着物を制作する際に用いられる技法は、主に以下の3つです。
- 手絞り
- 機械絞り
- プリント絞り
1つずつ詳しく説明していきます。
手絞り
手絞りとは、機械を用いず指先・爪先のみで絞り染めを行う技法です。
部分絞りではなく総絞りの着物となると、完成までに2~3年かかることもあります。
機械絞り
機械絞りとは、機械を用いて絞り染めを行う技法です。機械といってもマシンやロボットのようなものではありません。手で動かす器具をイメージした方が近いです。絞り染め専用の器具を用いて、模様を作り出します。
手絞り同様、完成には2~3年かかる場合も少なくありません。
プリント絞り
プリント絞りとは、絞り染め風のプリントを施す技法のことです。模様をプリントした後に、凹凸の型押しやシワ加工をすることで、絞り染めの質感やシボ感を再現しています。
手間や時間がかからないので安価なものが多いです。
絞りの着物の種類と見分け方
絞りの種類は非常に多いので、今回は特に有名な以下の3つを紹介します。
- 京鹿の子絞り
- 有松・鳴海絞り
- 南部絞り
特徴や見分け方も解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
なお、絞りについて本格的に学びたい場合は、テキストや画像・動画だけでなく、実際に触った感触や厚みなどを知る必要があります。着付け教室で実践的に学んでみてください。
京鹿の子(きょうがのこ)絞り
京鹿の子絞りは、伝統工芸品に指定されている絞りの技法です。子鹿の斑点模様に似ていることから名付けられました。京都で生産されることにも由来しています。
職人の手作業で一粒ずつ糸を括っていく点が特徴で、完成した際には京鹿の子絞りならではの凹凸やシワがあらわれます。
このような特徴がある京鹿の子絞りですが、糸の括り方や回数によってさらに種類は細かく分かれます。
疋田(ひった)絞り
疋田絞りは、鹿の子文様を敷き詰めて染める技法です。
基本的には、一粒に対して絹糸を4回巻いて括っていきます。
本疋田(ほんびった)絞り
本疋田絞りは、疋田絞りよりも更に粒を細かくした技法です。
一粒に対して絹糸を7回巻き、最後に根元でもう1回巻いて括ります。疋田絞りよりも糸を巻く回数が多いため、粒がきめ細かく繊細に見える点が違いです。
また、一つひとつの粒が細かいため、本疋田絞りは鹿の子文様がよりぎっしりと詰まっています。完成した生地の重厚感もあり、模様もよりハッキリとしています。
制作にかかる時間や手間も増えるため、本疋田絞りは疋田絞りと比べても高級です。
一目(ひとめ)絞り
主に、模様の輪郭を縁取る際や線を表すに際に使われるのが「一目絞り」です。一粒に対して糸を2回巻いて括ります。技法としては疋田絞りと同じですが、糸を巻く回数と模様の付け方が異なります。使用する糸も一目絞りの方が細いです。
一目絞りは疋田絞りや本疋田絞りと一緒に施されることが多くなっています。
有松・鳴海(ありまつ・なるみ)絞り
愛知県名古屋市の有松・鳴海で生産される絞り染めを総称して「有松・鳴海絞り」と呼びます。一工程に一人の職人が置かれており、完全分業制で制作される点が特徴です。
また、有松・鳴海絞りは種類が豊富な点も特徴で、技法の数は100以上にも及びます。以下で、一部を紹介していきましょう。
唐松(からまつ)絞り
唐松絞りは、左右対称の柄を半分に折って外側から順に平縫いし、固く絞った後に染色して模様を付ける技法です。円型が主流ですが、四角形で模様を作ることもあります。
唐松絞りは一つひとつの模様が大きく、とても華やかです。
雪花(せっか)絞り
雪花絞りは、生地を三角形に畳み、表裏の両側から三角形の板で挟んで染色する技法です。完成した模様が雪花(花のような雪)に見えることから名付けられました。雪花絞りは浴衣に用いられることが多いです。
あらし絞り
直径約19cm・長さ約3m60cmの棒に生地を巻き付け、上から糸をぐるぐると巻き、最後にぎゅっと圧縮した上で染色する技法を「あらし絞り」と呼びます。嵐のときの雨模様に見えることが名前の由来です。
あらし絞りは糸を巻く間隔や染色する時間・回数によって模様が変わります。男性用の浴衣で用いられることが多いです。
手蜘蛛(てくも)絞り
手蜘蛛絞りで作られた着物は、蜘蛛の巣のような模様をしています。有松・鳴海絞りの中でも伝統が深く、江戸時代初期から存在していました。
技法としては、生地自体をかぎ針にかけ、中心から外側に向かって糸を巻いていくことを繰り返します。最後に染色をすれば完成です。
木目(もくめ)絞り
木目絞りでは、等間隔に引かれた線に沿って平縫いをしていきます。縫った後に固く絞り染色すると、木目のような模様・シワが浮かび上がることから木目絞りと呼ばれています。
三浦絞り
指で生地を下から突き上げ、一粒に対して糸を1回巻いて括っていく技法が「三浦絞り」です。疋田絞りに似ていますが、巻き付ける回数が少ない点・粒が生地に対して平行である点などで異なります。
名称は、藩医であった三浦玄忠の妻がこの技法を鳴海に伝えたことに由来しています。
南部(なんぶ)絞り
南部絞りは、南部地方(青森県~秋田県~岩手県にまたがる地域)の伝統的な絞り染めです。
模様はさまざまですが染色方法に特徴があり、主に「紫紺(しこん)染め」と「茜(あかね)染め」などの技法が有名です。
南部絞りは鎌倉時代から伝わる技法ですが、平成3年に最後の継承者であった栗山文一郎さんが亡くなったことにより一度は伝統が途絶えてしまったこともあります。しかし、平成24年より復活を目指す動きが始まりました。今では染料の元となる植物の栽培も活発に行われています。
絞りの着物はいつ着る?
袖や肩のみに絞りが施されている「部分絞り」の着物は、訪問着として着用できます。子どもの卒業式やお宮参りなどに着ていけるでしょう。
着物全体に絞りがある「総絞り」の場合、袖が短いものは小紋と同様の扱いになるので街着・おしゃれ着としてしか着ることができません。フォーマルな場面には適さないということです。
袖の長さが十分で振袖の扱いになる場合は、成人式で着用できます。振袖は未婚女性の正装でもあるので、結婚式に参列することも可能です。
着用できる季節としては、絞りの着物が「袷(あわせ)」と「単衣(ひとえ)」のどちらで仕立てられているかによります。
袷の着物は二枚の生地を縫い合わせて仕立てられており暖かいので、10月上旬~5月下旬の比較的寒い時期に着るのがおすすめです。
一方、単衣の着物は一枚の生地で仕立てられており薄手なので、6月初旬~6月末や9月初旬~9月末など暖かい時期での着用が推奨されています。
袷や単衣について寄り詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
絞りの着物に関するQ&A
絞りの着物に関して、よく寄せられる質問を3つピックアップしました。
1つずつ回答していきます。
絞りの着物はクリーニングできる?
絞りの着物は、お店によってはクリーニングできます。
というのも、着物に関する知識がないクリーニング店に依頼すると色落ちや型崩れをしてしまう可能性があるのです。絞りの着物は非常に繊細なため、一度色落ち・型崩れをしてしまったものは二度と元に戻りません。
カビや染みが原因でクリーニングを依頼したい場合は、着物専門のクリーニング店を探しましょう。「絞り 着物 クリーニング」と検索すればいくつか候補が挙がるはずです。
これまでのクリーニング実績や費用・口コミ等を比較し、信頼できるクリーニング店を探し出してみてください。
絞りの着物は結婚式に着ていける?
絞りを結婚式に着ていけるかどうかは、着物の格と参列する立場によります。
振袖として仕立てられている絞りは、新郎新婦の姉妹・親族や、同僚・友人の方が着ていけます。ただし、基本的に振袖は未婚女性の正装とされているので、既婚女性は着用を避けるのが賢明です。
絞りが訪問着として仕立てられている場合は、同僚・友人の立場の方が着用するのに適しています。紋入りであれば親族の方も着用できます。
小紋としての絞りは、結婚式には向いていません。街着・おしゃれ着として普段使いしましょう。
結婚式に適した着物の選び方については、「結婚式の着物はどう選ぶ?立場ごとに違うので注意!」の記事で詳細に解説しています。ぜひ合わせてご確認ください。
絞りの着物の価格はどれくらい?
誰が・どの産地で・どんな技法を用いたかにもよりますが、総絞りの着物は百万円~数百万円が相場です。部分絞りの着物は、数十万円~数百万円と少し価格が下がります。
プリント絞りの着物であれば、数万円~数十万円程度と比較的安く購入可能です。
おわりに
本記事では、絞りに関する基礎知識を一つずつ解説してきました。気になっていた疑問は解消できたでしょうか。
絞りについて詳しくなったことで、今後はより一層着物を楽しめるようになったかと思います。
本サイトでは、他にも着物の知識や雑学に関する投稿をしています。ぜひ他記事もご覧になってみてください。