縁起の良い柄が施された着物として知られている「矢絣(やがすり)」。
本記事では、矢絣が人気を集めている理由や、人気のコーディネートについて紹介していきます。最後まで記事を読んで、矢絣柄に対する理解を深めていきましょう。
着物の矢絣とは?
矢羽根(やばね)をモチーフとした模様があしらわれた絣織物を、矢絣と呼びます。
元々は安土桃山時代におけるの装束でしたが、江戸時代後期からは縁起物として着られるようになりました。
矢絣が縁起物と言われる理由は2点あります。
1点目は、矢は真っ直ぐしか飛ばないため、射た後に戻ってくることがないという理由です。結婚する際に、出戻ることがないようにという願いを込めて矢絣を渡す風習は古くからあります。
2点目は、矢絣には破魔矢(はまや)の羽が描かれている点です。破魔矢は、魔を除け幸福を射る矢として知られています。
これらの理由から、矢絣は縁起物として扱われるようになりました。
矢羽根とは
では、矢絣に描かれている矢羽根とは何なのでしょうか?
矢羽根とは、矢に付ける羽のことです。鷲や雉・鷹などの羽が用いられます。矢の飛行方向を定め、保つために取り付けられています。
矢絣の魅力
矢絣が持つ魅力は、主に以下の3つです。
- 流行に左右されない
- 季節やイベントを問わず着用できる
- デザインのバリエーションが豊富
それぞれ詳しく説明します。
流行に左右されない
矢絣は江戸時代後期から縁起物として着用されてきた着物なので、デザインが流行に左右されません。
モダンな柄の着物は、今流行していたとしても、数十年後には洗練されていないデザインに見えてしまう可能性があります。
一方で、矢絣は歴史ある柄として長く愛用されてきたため、この先も変わらずに美しいデザインの着物として着続けられます。
着物は数十年に渡って着用できる、子や孫に受け継いでいける衣服なので、流行に左右されない点は大きな魅力と言えるでしょう。
季節やイベントを問わず着用できる
矢絣は、季節やイベントを問わず着用できます。
多くの着物には、季節に則した柄が描かれています。例えば、秋の着物には紅葉や桔梗・菊などが描かれています。
またイベント限定の柄が施された着物も少なくありません。羽子板や駒の模様が描かれている着物は、お正月以外で着ることはないでしょう。
その一方、矢絣は季節やイベントを問わないので、年中着られます。着物の価格は決して安くありません。着物を一着持つなら、矢絣を選ぶと着用の幅が広がるでしょう。
デザインのバリエーションが豊富
矢絣のデザインはシンプルでありながら、バリエーションが豊富にあります。
さまざまな色の組み合わせがあることはもちろん、矢羽根の大きさや幅も着物によって異なります。
矢羽根の色やサイズによって大人らしくなったり、個性的に見えたりと、イメージが大幅に変わるので、自身に合うものを探す楽しさを感じられるでしょう。
矢絣柄についてのよくあるQ&A
矢絣について、よく寄せられる質問に回答していきます。
- 矢絣は学生向けの着物ですか?
- 矢絣の着物は男性が着ても良いですか?
矢絣柄は学生向けの柄ですか?
矢絣と聞くと、女学生の制服なのではないかと考える方は多いのではないでしょうか。
そのイメージは「はいからさんが通る」という作品に由来しているかもしれません。「はいからさんが通る」は、漫画やアニメ・映画・舞台などさまざまな形で作品として愛されています。
そして、「はいからさんが通る」の主人公の花村紅緒が作中で紫色の矢絣を着ていることから、矢絣=女学生のイメージが広まっていきました。
しかし、矢絣は年齢制限のある着物ではありません。どなたでも楽しめる着物となっているので、安心して着用してください。
矢絣の着物は男性が着ても良いですか?
矢絣の着物は男性が着ても問題ありません。元々は武家が着ていたものなので、違和感を覚えることもないでしょう。
男性用着物を探す中で、矢絣は簡単に見つかります。好みのデザインを探してみてください。
矢絣の着物のコーディネート
矢絣のコーディネートを5つ紹介します。色の組み合わせや、小物選びの参考にしてみてください。
赤×白の定番矢絣コーディネート
赤と白の矢絣に紺色の袴を合わせた定番のコーディネートです。矢絣の色に合わせた、真っ赤な椿の髪飾りもよく合います。
卒業式らしい、おめでたさの溢れるコーディネートとなっています。
多彩な緑を用いた大人らしい矢絣コーディネート
3つの緑色で描かれた矢羽根模様が爽やかな矢絣コーディネートです。どこか葉の色を彷彿とさせるこの矢絣は、自然豊かな印象です。
矢羽根のサイズが小さいため主張も強すぎず、大人らしさが感じられます。
ベージュ×青緑の洗練された矢絣コーディネート
ベージュと青緑の矢絣からは、洗練された都会的な印象を覚えます。着物だけではしっとりとまとまりそうですが、パキッとした紫色の袴が全体を力強くまとめています。
草履ではなくブーツを合わせることで、ハイカラさんのようなスタイルとなっている点も特徴的です。
大きな矢羽根がクールな矢絣コーディネート
大きな矢羽根が要所に描かれている矢絣のコーディネートです。模様が大胆なので、矢絣と気付かない方もいるかもしれません。
黒をベースとした色合いの矢絣はクールな装いとなります。赤色の帯が差し色として、暗くなりすぎないような役割を果たしています。
さまざまな色と形を組み合わせた矢絣コーディネート
こちらは非常に遊び心のある矢絣です。さまざまな形・デザインの矢羽根が描かれています。生地も特徴的で、4つの色が使われています。
定番の矢絣のほか、このような一風変わったデザインのものもたくさんあるので、気に入るものを探してみると良いでしょう。
矢絣以外の、縁起の良い柄一覧
着物には、矢羽根模様が描かれた矢絣以外にも縁起の良い柄がたくさん存在します。
縁起の良い着物の柄を紹介していくので、ぜひ参考にしてみてください。
松竹梅(しょうちくばい)
松・竹・梅の3つが施されている「松竹梅」の柄は、生命力の強さを表す縁起の良い柄です。
結婚式やお宮参りなどのおめでたい場面で着用することが多くなっています。
亀甲文(きっこうもん)
亀の甲羅をかたどったとされている「亀甲文」は、健康・長寿を象徴する縁起の良い柄です。
六角形が連なったシンプルな柄ですが、文様の描かれ方が多岐に派生しているため、デザイン性は高くなっています。
また、亀甲文は飛鳥時代より続く柄なので、伝統の深さを感じることもできます。
七宝文(しっぽうもん)
「七宝文」とは、その名の通り七つの宝を表す柄です。
同サイズの円が、4分の1ずつ重なった模様が七宝文です。円がつながって見えることから、円満やご縁といった意味が表現されています。
麻の葉(あさのは)
「麻の葉」は、厄除けや成長祈願を表す縁起の良い柄です。
子供の成長を祈って着ることが多いので、七五三やお宮参りといった場面に適しています。
麻の葉を六角形にかたどった柄なので、全体としてクールな印象になりやすくなっています。
市松文(いちまつもん)
同じ大きさの正方形が、規則的に並べられたものが「市松文」です。2020年の東京オリンピックのエンブレムにも使われている柄です。
途切れずにどこまでも続いていくことから、事業発展や子孫繁栄を願う際に着用されることが多くなっています。
市松文は単体だとシンプルですが、他の柄と組み合わせて使われることも多く、柄のバリエーションとしてはさまざまなものがあります。
桜文(さくらもん)
桜柄が施されている「桜文」は、豊かさや物事の始まりを表しています。
入学式や卒業式といった、新生活のスタートを着る場面に向いている縁起の良い柄です。
注意点として、桜文は着る時期にルールが設けられていることを覚えておきましょう。枝付きの桜が描かれている着物を着られるのはつぼみ~3分咲きの時のみです。桜が満開の時に着たい場合は、散り際を描いた桜文を選ばなければなりません。
観世水(かんぜみず)
「観世水」は水面が渦巻く様子を描いた柄で、その涼しげな様子からで夏に適しています。
また「流れる水は腐らず」という言葉にあるように、観世水は未来永劫を象徴する柄となっています。明るい未来を祈るようなシーンに適している柄だと言えるでしょう。
菊(きく)
菊は長寿や無病息災を表す植物です。
着物の柄としてのバリエーションは豊富で、菊を寄せ集めた「菊尽くし」や菊を水に浮かべた「菊水」をはじめとしたさまざまな種類があります。選ぶ柄によって印象は大きく変わります。
菊は秋の植物なので、着る季節は秋がおすすめです。
雪輪(ゆきわ)
冬に合う縁起の良い柄といえば「雪輪」です。雪を輪っか状で表したもので、豊作を象徴しています。
また、雪輪は涼をとるといった意味で夏にも向いているのが特徴です。季節を問わず楽しめる柄として愛されています。
まとめ
本記事では、着物の矢絣とは何かについて解説してきました。内容をまとめると以下のようになります。
- 矢絣とは、矢羽根をモチーフとした模様があしらわれた絣織物のこと
- 矢絣は縁起の良い着物として江戸時代後期から長く愛用されてきた
- 矢絣は世代・季節・イベントを問わず、いつでも楽しめる着物である
- 矢絣は女学生だけでなく、全年代・性別の人が着用して良い
- 矢絣のデザインはバリエーションが豊富に揃っている
本記事を通して、矢絣の知識は深まったでしょうか。今回解説した内容を参考に、矢絣を楽しんでみてください。
矢絣についての知識やコーディネートについては、着付け教室でより深く学ぶこともできます。帯のアレンジや小物との組み合わせなど、詳しく学んでみたい方は教室に通うことも検討すると良いでしょう。
以下の記事でおすすめの着付け教室を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。