着物の歴史は長く、起源をたどると縄文時代にまで遡ります。
また、各時代の背景に沿って着物の形は変化・進化し、現在の形が作り上げられました。
例えば、着物を右前で着る文化が始まったのは奈良時代で、着物が現代の形に大きく近づいたのは平安時代です。また、着物という言葉が使われ始めたのは室町時代です。
本記事では、縄文時代から現代までの着物の歴史をそれぞれの時代に沿って紹介します。
各時代の着物について知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
着物の歴史の年表
着物の歴史を簡単に表にまとめました。
時代 | 着物の歴史 |
---|---|
縄文時代 | 獣の皮や植物の皮・羽毛を用いたワンピース型の衣服 |
弥生時代 | 男性:巻布衣(かんぷい) 女性:貫頭衣(かんとうい) 素材は絹や植物繊維 |
古墳時代 | 男性:上衣が筒袖(つつそで)、下衣が足結(あゆい) 女性:上衣が筒袖(つつそで)、下衣が衣裳(きぬも) 素材は絹や植物繊維 |
飛鳥時代・奈良時代 | 庶民:胡服(こふく) 公家:礼服(らいふく)、朝服(ちょうふく)、制服(せいふく) 素材は絹や植物繊維 この頃から右前の文化が根付く |
平安時代 | 庶民:小袖(こそで) 公家:束帯(そくたい)、十二単(じゅうにひとえ)などの大袖 着物の歴史に変化を与えた時代 |
鎌倉時代 | 平安時代との変化はほぼない 台頭した武家が、公的な場では大袖を、私的な場では小袖を着るようになる |
室町時代 | 武家や町人が袂(たもと)のついた小袖を着るようになる 通常の小袖との違いを明確にするために、着物という言葉が使われ始める |
安土桃山時代 | 男性:肩衣袴(かたぎぬばかま)が流行 女性:打掛姿(うちかけすがた)が流行 多くの染色技法が生み出される |
江戸時代 | 身分によって着用できる着物が限定される 商人:豪華な色や高級素材の着物 庶民:麻素材または綿素材で、茶色・鼠色・藍色の着物 |
明治時代 | 鎖国が終わり、衣服が外国の影響を受ける 宮中の礼装は洋服となる 庶民の間では着物が着られている |
大正時代 | 洋服を着る人口が増える 着物も、西洋風の柄や色合いの物が増える 着物と洋服を混ぜたファッションも発生する |
昭和・平成・令和 | 着物を普段着で着る人はとても少ない 着物を着るのは成人式や卒業式などの場面に限定される |
※クリックで各時代にとべます。
それぞれの時代の着物の歴史について、詳しく説明していきます。
縄文時代
縄文時代は、狩猟で入手した獣の皮や植物の皮・羽毛を用いたワンピース型の衣服を着ていました。
現代の着物とはかけ離れたもので、体温調整や狩猟時の体の保護を目的として利用されていたそうです。
弥生時代
中国の歴史書「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」によると、日本人の男性は巻布衣(かんぷい)を、女性は貫頭衣(かんとうい)を着ていたそうです。
巻布衣とは一枚の布を体に巻きつけた衣服で、貫頭衣とは布の中心を切り頭を出すワンピース型の衣服のことです。縄紐を腰に巻いて着用します。
貫頭衣は体温調整を行いやすくするために、やがて両脇に袖が縫い付けられるようになりました。
また、弥生時代には朝鮮半島から絹糸を織る技術や布を織る「機織具(はたおりぐ)」が伝来しており、身分の高い人物は絹の衣服を着ていたことが分かっています。
一般の身分の人物は、麻や苧麻(からむし)などの植物繊維を用いた衣服を着ていました。
この弥生時代の衣服は、着物の起源と言われることが多いです。
古墳時代
古墳時代は、上下が分かれたツーピース型の衣服を着ていました。大陸との交流が盛んになり、異国文化を取り入れた形となったと言われています。
男性は、筒状の袖である筒袖(つつそで)がついた上衣に、足結(あゆい)というズボン状の下衣を合わせて着用していました。膝のあたりを紐で縛って留めています。
女性は、同じく筒袖がついた上衣に、衣裳(きぬも)というスカート状の下衣を合わせて着ていました。
現在とは異なり、どちらも左前で着るのが一般的でした。
また、古墳時代には以前よりも高級な機織具が伝わり、複雑な衣服を織れるようになったそうです。
さらに、古墳時代は養蚕も盛んになり、絹織物の技術も発展し始めました。
とはいえ、絹の衣服を着ることができるのは上流階級のみで、一般的には植物繊維の衣服が着られていました。
飛鳥時代・奈良時代
飛鳥・奈良時代は、遣唐使の派遣により唐(現在の中国)の文化を取り入れるようになり、唐で主流だった漢服(かんふく)と呼ばれる衣服を着る人が増えました。
漢服とは、袖口が大きく開いていて全体的にゆったりとした衣服のことです。裾は膝下まで長く続いています。
また、飛鳥時代には聖徳太子が「冠位十二階」を制定し、身分によって冠と衣服の色が定められるようになります。その後、奈良時代には「三公服」が定められ、身分によって礼服(らいふく)、朝服(ちょうふく)、制服(せいふく)の3つの衣服を着分けるようになりました。
しかし、このような衣服を着ていたのは上流階級のみで、庶民は胡服(こふく)という動きやすく体にフィットする衣類を着ていました。
719年に発令された「衣服令(えぶくりょう)」には“発令天下百姓右襟”という一文があり、どんな身分の人でも衣服は右前で着用するように定められました。この衣服令が、現在の着物の右前の由来となっています。
平安時代
平安時代には遣唐使が廃止され、衣服は日本独自の進化を遂げました。
庶民は、現在の着物の原型とされている小袖(こそで)を着るのが主流となりました。
公家などの身分が高い人物たちは、束帯(そくたい)や十二単(じゅうにひとえ)を着るようになったとされています。どちらも袖がゆったりとした大袖(おおそで)を重ねて着る点が特徴です。
重ね着の文化は、天候の変化が大きい日本の気候に適応するために生まれましたが、やがて支配階級の権力を表す象徴となりました。
庶民は労働に向いた軽装の小袖を着て、あまり活動的である必要がない公家などは重厚な大袖を着るという構造になっています。
また、平安時代には染色や織物の技術が発展したことにより、衣服の色や柄が豊富になりました。
このように、平安時代は着物の歴史に大きく影響を与えた時代だと言えます。
鎌倉時代
鎌倉時代に入ると武家の勢力が増していきましたが、衣服の文化に大きな変化が生じることはありません。
農民から武家に成り上がった者たちは、かしこまった場では公家と同じ大袖を、日常生活では今まで通り小袖を着て生活していました。
室町時代
室町時代の武家は、重要な儀式では公家同様の大袖を着用し、通常の儀式では武家独自の大袖を着用し、日常生活では小袖を着用して生活するように変化します。
ただし、小袖の形が鎌倉時代からは変化し、絹を用いた袂(たもと)のある小袖を着るのが主流となりました。
また、室町時代の後半には商業をおこなう町人が台頭し、町人も絹地で袂のある小袖を着るようになりました。
こうして公家を除く多くの人々が袂のある小袖を着用するようになったのが室町時代です。
そして、袂のついた小袖は、通常の小袖と区別するために「着物」という呼ばれ方をされるようになりました。
安土桃山時代
戦乱が終わり平和が取り戻された安土桃山時代には、非常に豪華な安土桃山文化が発展し、数多くの美術工芸品が作られました。
着物の染色技法が発展したのもこの時代で、当時生み出された染色技法が現代の着物に用いられています。
また、安土桃山時代の着物は、男性は肩衣袴(かたぎぬばかま)、女性は打掛姿(うちかけすがた)が流行しました。
江戸時代
江戸時代になると、身分によって着用できる着物の色や素材に制限が設けられました。
商人が豪華な色や高級素材の着物を着る一方、庶民が着用できる着物は麻素材または綿素材で、茶色・鼠色・藍色の着物のみに限定されました。そのため、庶民はさまざまな形で帯を結んで楽しんだと言われています。江戸時代後期には帯締めや帯揚げを使った帯結びも主流になりました。
また、江戸時代は、それぞれの大名が与えられた藩(領地)をまとめるようになり、各藩では制服として裃(かみしも)という着物を着るようになりました。
裃とは、上半身が肩衣(かたぎぬ)・下半身が袴となっている着物のことで、小袖の上に着用します。
明治時代
明治時代は開国によって外国の影響を受け、衣服にも変化が訪れます。
どの身分の人も今までは着物を主流で着ていましたが、宮中の礼服は洋服を着るように定められました。それにより、上流階級から徐々に洋服の文化が根付き始めます。
洋服の文化が根付くまでの間、庶民の中では鼠色を基調とした生地に友禅染をあしらった着物が流行していました。
大正時代
大正時代には洋服の文化が普及し、洋服を着る人口が増えました。
着物を着る人も多く居ましたが、柄や色合いが西洋風に変化し、海外の植物を描いた着物などが流行しました。
また、大正時代には袴にブーツを合わせるなど着物と洋服を混ぜ合わせたファッションも発生し始めます。
昭和・平成・令和
昭和から平成・令和にかけて、着物を普段着で着る人はとても減りました。
多くの方にとって、着物を着るのは成人式や卒業式・結婚式などのかしこまった場面のみになりました。花火大会や夏祭りでは、浴衣を着て楽しむ方もいます。
日本人で着物を着る方が減った一方、平成や令和では外国人の着物ブームが到来しました。
訪日観光客が、着物を着て観光をすることが増えています。
まとめ
本記事では着物の歴史を時代ごとに解説してきました。着物の成り立ちや変化・進化について知識を深めることはできましたでしょうか。
着物の歴史や成り立ちを知ると、着付けやコーディネートをより一層楽しめるようになります。何度か読み返し、着物の知識を深めてみてください。
この記事が着物の歴史について知りたい方の参考になり、着物を楽しむきっかけとなっていれば幸いです。