本記事では、麻着物の特徴や魅力・注意点を徹底解説しています。記事後半では、麻着物の種類や、おすすめのコーディネートなども紹介しているので、ぜひ最後までお読みください。
本記事を読めば、麻着物の基礎知識を学ぶことができ、より着物を楽しめるようになります。
麻着物ってどんな着物?
麻着物とは、植物の麻を素材に使用した着物のことです。
麻着物は、裏地を付けない単衣仕立てで生地が薄いため、着物の中でも「薄物」に分類されます。薄物とは、7月初旬~8月末の盛夏の時期に着用する着物を指します。
また、麻着物は基本的にカジュアルシーンで着用します。街着や普段着として使うので、フォーマルな場には向きません。
そもそも麻とは
麻とは、セルロースで構成される植物繊維の総称です。
麻には、亜麻(リネン)・苧麻 (ラミー)・大麻 (ヘンプ)・黄麻(ジュート)・マニラ麻(アバカ)など数十以上の種類があります。しかし、衣料として麻と表記できるのは、亜麻(リネン)と苧麻 (ラミー)のみとなっています。
日本では、飛鳥時代や奈良時代から衣料用の素材として使われてきたという記録が残っています。麻は伝統的な素材として、長く愛用されてきたものと言えるでしょう。
麻着物の魅力
麻着物の魅力は、主に以下の5つが挙げられます。
- 通気性が高い
- 吸湿性・速乾性が高い
- 自宅で丸洗いできる
- 汚れづらく衛生的
- 経年変化を楽しめる
一点ずつ詳しく見ていきましょう。
通気性が高い
麻着物は通気性が高いため、暑い夏でも快適に過ごすことができます。
素材の特性上、生地が肌に張り付くこともありません。サラサラとしていて風を通すので涼感があります。盛夏にぴったりの着物です。
吸湿性・速乾性が高い
麻の生地は吸湿性・速乾性が高いといったメリットもあります。
夏場に汗をかいても、生地が吸ってくれます。その上、すぐに乾くのでベタベタとくっつきません。
麻着物が夏に好まれる理由は、この吸湿性・速乾性によって快適に過ごしやすいからだと考えられるでしょう。
自宅で丸洗いできる
麻は素材が丈夫なので、自宅で丸洗いできます。洋服と同じように洗濯機で洗えるので、気軽に着用できるのは大きなメリットでしょう。
洗濯後にシワや縮みが起きやすい点には注意が必要ですが、基本的には何度洗っても使えて長持ちするので、普段着として愛用しやすいです。
汚れづらく衛生的
麻にはペクチンという成分が含まれています。ペクチンは汚れが入ってくることを防ぐ役割や、抗菌性を持っているため、麻着物は他と比べて汚れづらく衛生的です。
また、ペクチンには汚れを落としやすいといった特徴もあるので、万が一汚れてしまった場合も安心です。
経年変化を楽しめる
麻着物は、初めは生地が比較的硬く、パリパリ・ザラザラとしています。
しかし、何度も着たり洗濯したりしていくうちに、生地はどんどん柔らかくなっていきます。色合いや触感が変わっていく様子を楽しめるのは麻着物ならではの特徴です。
経年変化による、着物を育てていく感覚を楽しめるでしょう。
麻着物の注意点
麻着物には上記の魅力がありますが、以下の注意点があることも覚えておきましょう。
- シワがつきやすい
- 夏以外には向いていない
順番に解説していきます。
シワがつきやすい
麻着物は、シワがつきやすいといった特徴があります。洗濯機で乾燥しすぎたり、脱水を長く行いすぎたりすると、その状態のままシワが残ってしまうので注意してください。
ただし、洗濯後にしっかりシワを伸ばしてから干せば問題ありません。
麻着物の洗い方については後述しているので、併せて参考にしてみてください。
夏以外には向いていない
麻着物は原則、盛夏に着るものとされています。春・秋・冬には適していない場合がほとんどなので気をつけましょう。
麻着物は着用できる季節が限られていますが、その分夏にはぴったりの要素を兼ね備えています。暑い時期に重宝するという点ではメリットとも捉えられるでしょう。
麻着物に使われる生地の種類
麻着物に使われる生地は、大きく以下の2種類に分けられます。
- 縮(ちぢみ)
- 上布(じょうふ)
それぞれ詳しく説明します。
縮(ちぢみ)
縮とは、よこ糸に強い撚り(より)をかけて織りあげた後、表面を縮ませてシボを作った生地を指します。シボとは生地表面にあらわれる凹凸のことで、シボがあることで生地が肌に張り付きづらくなります。
以下で紹介する上布よりも費用が低く、比較的手に入れやすい価格帯です。
上布(じょうふ)
上布は、上質で細い麻糸を平織りした質の高い生地です。冷たくさらっとした肌触りをしており、通気性も高いです。
上布は、かつては幕府に上納されていた高級品でした。現在も変わらず希少性は高く、価格帯としても高めです。
麻着物の種類
麻着物の種類は産地や製造方法などによって変わります。今回は、麻着物の中でも特に有名な7種類を紹介します。
- 会津上布
- 越後上布
- 近江上布
- 能登上布
- 八重山上布
- 近江縮
- 小千谷縮
各種類の特徴を、一つずつ確認していきましょう。
会津上布
会津上布は、福島県の会津市で作られる上布です。会津からむし織りと呼ばれることもあります。からむしとは苧麻(ラミー)のことで、吸湿性・速乾性の高さが特徴です。
会津上布に使われるからむしは品質が高く、着心地の良さからも人気を集めています。
越後上布
越後上布は、新潟県の小千谷市・南魚沼市などの越後地方で織られる上布のことです。国の伝統的工芸品と重要無形文化財の両方に指定されています。越後上布は高級品であるため、価格も非常に高いです。
製造過程の最後には「雪ざらし」という、生地を雪の上に晒す工程があり、雪国ならではの風物詩として知られています。
近江上布
滋賀県の近江地方で作られている上布を「近江上布」と呼びます。
近江上布の特徴は独自の絣模様で、上品な見た目をしています。染色技術の難しさから幻の上布と呼ばれることもあるのがこの近江上布です。
爽やかな風合いの着物が多いことも特徴として挙げられます。
能登上布
能登上布は、石川県の羽咋市(能登地方)で作られている着物です。
およそ2,000年前からの長い歴史を持つ種類ですが、現在、能登上布を製造しているのは山崎麻織物工房のみとなっています。
能登上布は櫛押捺染(なっせん)・ロール捺染といった技法を用いており、そこから生み出される素朴なデザインが人気を集めています。
八重山上布
沖縄県の八重山諸島で製造されている「八重山上布」。素材には八重山で育った苧麻(ラミー)が、染料には紅露が使われています。
八重山上布は琉球王朝時代からの長い歴史を持つ麻着物で、古くから愛されてきました。伝統を受け継ぐため、今では後継者の育成に力を入れています。
近江縮
近江縮は、滋賀県の近江地方で作られる縮です。
室町時代から続く麻着物で、かつてはすべて手作業で製造されていました。現代では作業が機械化された部分も多く、多くの方にとって身近に感じられる価格帯で販売されています。
近江縮には独特のシボがあり、着ていて涼感を味わえる点が特徴です。
小千谷縮
新潟県の小千谷市で作られる縮が「小千谷縮」です。
国の重要無形文化財に指定されています。また、ユネスコ無形文化遺産に、日本の染色技術としては第一号の登録を受けています。
小千谷縮のシボが持つ立体感には独特の風合いがあり、上品な印象です。また、越後上布同様、製造過程の最後には「雪ざらし」の工程を挟んでいます。
麻着物のコーディネート
麻着物のお洒落なコーディネートを3つ紹介します。帯や小物との組み合わせや、色・デザイン選びの参考にしてみてください。
小千谷縮のコーディネート
爽やかな色合いの小千谷縮に、薄く色づいた帯や帯揚げを合わせたコーディネートです。
色の組み合わせや、小千谷縮のシボから涼しさが感じられます。
近江上布のコーディネート
鮮やかな近江上布の麻着物に、華やかな半幅帯を合わせたコーディネートです。
近江上布自体のデザインは素朴ですが、帯や帯揚げの大胆な花柄が目立つため、全体としてゴージャスな印象を受けます。
能登上布のコーディネート
能登上布に麻の帯を合わせた、盛夏らしいコーディネートです。手に持っている扇も透け感があり、夏にぴったりの組み合わせと言えるでしょう。パリッとした涼しげな色合いが目を惹きます。
麻着物は洗濯できる?おすすめの洗い方は?
麻着物は、自宅の洗濯機で洗えます。
洗濯機を使用する際は、洗濯ネットに入れた上で「おしゃれ着用洗剤」や「中性洗剤」を用い、おしゃれ着モードで運転を行ってください。
麻着物の生地を傷めたくない場合は、手洗いの方がより好ましいです。
桶に麻着物を入れて押し洗いをしてください。
洗濯・手洗いともに、洗い終わった後は短時間で脱水を行いましょう。洗濯機の脱水モードを20~30秒程度回したら、すぐに取り出すことが重要です。
取り出した後はハンガーに掛け、シワを伸ばしながら干すことで形が崩れません。乾いた後にシワが気になる場合は、麻着物を再度水で濡らし、重さのあるものを載せれば生地をピンと伸ばすことができます。
まとめ
本記事では、麻着物についての基本的な知識を網羅して紹介しました。
麻着物は7月初旬~8月末の盛夏の時期に適した着物で「通気性が高い」「吸湿性・速乾性が高い」「自宅で丸洗いできる」「汚れづらく衛生的」「経年変化を楽しめる」などの魅力があります。
その一方で、シワがつきやすい・夏以外には向いていない、というデメリットもあることが分かりました。
麻着物にはたくさんの種類があり、それぞれ違った特徴を楽しめるので、ぜひ自分に合うものを見つけてみてください。
麻着物についてより詳しく学びたい場合は、着付け教室に通ってみるのもおすすめです。おすすめの着付け教室を下記ページで紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。