普段着としてよく着られる伝統的着物、「紬(つむぎ)」。
見たことや聞いたことがあっても、特徴や着こなし方は知らないのではないでしょうか。
本記事では、紬の概要や歴史から、帯や小物の合わせ方まで詳しく解説します。紬の基本的な知識を身につけたい方はぜひ最後までお読みください。
この記事を読めば、紬のコーディネートを楽しめるようになりますよ。
紬の着物とは
紬の着物とは、紬糸(つむぎいと)を使った先染めの織物の着物です。蚕の繭から引き出した糸に、よりをかけて織っています。
先染めとは、糸そのものを先に染めてから織ることで柄を作り出す手法のことです。
その反対の手法として、白い糸の状態で織ってから色を染めて柄を作る「後染め」があります。
先染めは後染めに比べて糸を染めるのに長い時間がかかり、コストを要する点が特徴です。
紬の生地の特徴
紬は色を付けた糸を織って柄を作るため、生地は丈夫で硬いです。
最初は着心地がゴワゴワとしていますが、着慣れると肌に馴染んで柔らかくなります。
また、紬糸は生糸(きいと)とは違い光沢が落ち着いており、素朴な雰囲気を持っています。
紬の歴史
紬の歴史は江戸時代までさかのぼります。
養蚕を行っていた農家が、上質な絹糸を出荷した後、出荷できずに残った繭を用いて普段着を織ったところから始まっています。
それからというものの、紬は庶民の普段着として長く愛される着物となりました。
紬の着物の種類
紬の着物の種類は多岐に渡ります。
本記事では、紬の着物の中でも有名な以下の5種類を紹介していきます。
- 大島紬(おおしまつむぎ)
- 結城紬(ゆうきつむぎ)
- 久米島紬(くめじまつむぎ)
- 牛首紬(うしくびつむぎ)
- 塩沢紬(しおざわつむぎ)
大島紬
大島紬は、鹿児島県南部の奄美大島で織られた絹100%の紬です。約1,300年の歴史があり、日本の伝統的工芸品に指定されています。
絹が持つ光沢や軽い肌触り、シワのつきづらさが特徴です。
大島紬は「泥染め」という、何度も染料に浸した糸を泥に浸けて揉み込む染色手法がとられています。
また、大島紬を一つ織るのにはおよそ1年の長い期間を要します。
このように、大島紬は使う糸の質が高いのはもちろん、織りあげるのに高い技術や時間が必要です。
そのため、紬の中でも格が高く、普段着だけでなく訪問着として着用されることも少なくありません。
結城紬
結城紬は、茨城県・結城市で織られた紬です。奈良時代から富裕層に愛用されていました。
今は国の重要無形文化財に指定されています。
結城紬で使う糸は、繭の真綿(まわた)を指先で紡いで束ねるためよりがかかっていません。
そのため、完成した生地は軽い上に肌触りが柔らかく暖かいです。
また、結城紬は全工程を手作業で織るため、1つを完成させるのに1年程度かかることもあります。
繊細な工程を経て出来上がることから、結城紬は高級な織物として取り扱われることが多いです。
久米島紬
久米島紬は、沖縄県の久米島で織られた紬です。沖縄がまだ琉球王国と称されていた15世紀からの長い伝統を持っています。
現在は、日本の伝統工芸品と国の重要文化財の両方に指定されています。
久米島紬の特徴は生地の素朴さや深い色合いです。
糸の染料を久米島で育つ植物から抽出しているからこそ、久米島紬ならではの素朴さを出せるのでしょう。
また、久米島紬は1人の職人がすべての工程を手作業で一貫して行っているため、職人の心を感じられる紬であると言えます。
牛首紬
牛首紬は、石川県の石川郡白峰村で織られた紬です。1159年からの歴史を持つと言われています。今では国の重要無形文化材です。
牛首紬の糸は二匹の蚕が作る「玉繭(たままゆ)」を使用しています。玉繭から引き出した糸は丈夫でハリがあり、牛首紬の特徴ともなっています。
しかし、玉繭から糸を引き出すのは難しく、職人の高い技術力が必要です。
そのため、牛首紬は希少性が高い紬として多くの人が憧れています。
塩沢紬
塩沢紬は、新潟県南魚沼市で織られた紬です。江戸時代に発祥したもので、日本の伝統工芸品に指定されています。
塩沢紬は、たて糸に生糸か玉糸を、よこ糸に真綿手紡糸(まわたてつむぎいと)を使用しています。
生地表面には塩沢紬特有のシボがあり、その見た目は上品かつ渋いです。
落ち着いた紬が好みの方は、塩沢紬を愛用する傾向にあります。
紬の着物を着るシーン
紬の着物は、基本的にカジュアルなシーンで着用します。
例えば以下の場面です。
- 友人とのお食事会
- 観劇・コンサート
- 同窓会
- 祝賀会・パーティ
- お稽古ごと
結婚式や卒業式・入学式のようなフォーマルな場面で着ることはありません。
あくまで普段のおしゃれ着として楽しんでください。
紬の着物に合わせる帯
紬の着物に合わせる帯は以下の3つが主流です。
- 名古屋帯
- 洒落袋帯
- 半幅帯
それぞれ詳しく説明します。
名古屋帯
紬に合わせる機会が最も多いのが名古屋帯です。
紬は織の着物なので、染めの帯が合うでしょう。
ただし、紬に織の帯を合わせてはいけないというルールはないので、そこまで気にすることはありません。
洒落袋帯
紬の着物には紬の洒落袋帯がよく合います。
遊び心のある洒落袋帯を選んでみてください。
ただし、金糸や銀糸を用いた袋帯は合わせませんのでご注意ください。
金糸・銀糸が入った袋帯は、フォーマルな礼装に合わせます。
半幅帯
紬をカジュアルに装いたいときは、半幅帯を合わせると良いです。
半幅帯は、くだけた場面にぴったりの帯です。
また、他の帯よりも細くて簡単に結べるので、着物初心者の方にもおすすめできます。
紬の着物に合う長襦袢
紬の着物は落ち着いた色や渋い色が多いので、長襦袢(ながじゅばん)は目立つ色の方が好相性です。例えば赤やオレンジなどですね。
派手な柄やかわいい柄も見栄えが良いでしょう。
紬の装いは長襦袢でお洒落さが決まると言っても過言ではありません。
紬の着物に合う色・柄の長襦袢をコーディネートしてみてください。
紬の着物に合う帯締め・帯揚げ
紬の着物に合わせる帯締めや帯揚げの色は、着物や帯で使われている色を選ぶとおしゃれです。
なお、帯揚げと帯締めは異なる色を選んだ方が垢抜けて見えます。
紬の着物は落ち着いたものが多いので、帯締めを変わり結びにしたり、柄入りの帯揚げを選んだりするのも粋です。
いずれも、金糸・銀糸を用いたものは適さないので気を付けてください。
紬の着物に合う草履・バッグ
紬の着物にはどんな草履やバッグを合わせても問題ありません。
紬の着物はシックなものが多いので、黒やネイビー・グレー色をベースとした草履が合うでしょう。
バッグに関しては、草履とペアで購入すると統一感が出るのでおすすめです。
紬と絣(かすり)の違い
紬とは、紬糸を使って織られた着物やその生地です。
絣とは、絣糸(かすりいと)を織って柄を出す技法を指します。
絣糸とは、生地を織る前の段階で、あらかじめ2色以上の色に染め分けされた糸のことです。絣糸を使って生地を織ることで、絣が出ます。
つまり、生地の種類を指す「紬」と技法の種類を指す「絣」の違いを同列で比較して説明することはできません。
紬と小紋の違い
紬と小紋の違いは染色のタイミングで説明できます。
紬は、生地を織る前に糸を染色する「先染め」ですが、小紋は生地を織った後に染色する「後染め」です。
そのため、小紋の模様の方が鮮やかでハッキリとしています。色合いも、小紋の方が明るいものが多いです。
紬と小紋を一目で明確に見分ける方法もあります。
紬は先染めなので表裏どちらから見ても生地の柄が同じです。その一方で、小紋は後染めなので表裏で柄が異なって見えます。
違いが分からなくなったときは、生地の表と裏を見比べてみてください。
まとめ
紬の着物についてまとめるとこのようになります。
- 紬とは、紬糸を使った先染めの織物の着物のこと
- 紬の生地は丈夫で硬く、見た目はシックで素朴である
- 紬は、生産地や技法ごとにさまざまな種類がある
- 紬は普段着なので、フォーマルな場面では着用しない
- 紬には名古屋帯・洒落袋帯・半幅帯のいずれかを合わせると良い
- 紬は落ち着いた色合いのものが多いので、派手な長襦袢を着ておしゃれを楽しめる
- 帯締めや帯揚げは、紬の着物や帯で使われている色を抜き出すと粋
- 紬には、黒やネイビー・グレー色をベースとした草履やバッグが合う
- 「絣」とは絣糸を織って柄を出す技法のことで、生地の種類を指す「紬」と比べることはできない
- 生地の柄が表裏同じであれば紬で、そうでなければ小紋だと見分けられる
本記事で紹介した内容を基に、紬を着こなしてみてください。
紬にはたくさんの種類があるので、着比べて気に入る種類を探すのも楽しいですよ。
この記事が、紬の着物について知りたい方の参考になれば幸いです。