着物を着るマナーとして、左右どちらの襟を上にするかは非常に重要です。
着方を誤ると亡くなった方の着用方法になってしまうからです。誤った着方を指摘されて恥をかきたくないですよね。
ということで本記事では以下の4点について詳しく説明します。
- 着物の襟はどちらを前にするのが正解なのか
- 着物の襟の合わせ方に関する歴史や用語
- 着物の襟の合わせ方を間違えないコツ5つ
- 着物の襟の合わせ方に関する注意点3つ
着物を着る予定がある方はぜひ最後までお読みください。
この記事を読めば、今後襟の合わせ方で迷うことはなくなるでしょう。
着物は「右前」が正解!
着物の着方は「右前」が正解です(上記画像参照)。
画像を見てわかる通り、右前とは“左襟を上にする状態”のことを指します。
少々ややこしいかもしれませんね。
自分から見て右の襟が手前にあるので「右前」と呼びます。
着物が「右前」になった歴史
着物が右前と決められたのは西暦719年に発令された「衣服令(えぶくりょう)」が起源です。
衣服令の中には「発令天下百姓右襟」という一文があり、“天皇から百姓までどんな身分の人でも右前で着用するように”と指示されています。
着物の文化が根付いていた中国で、“左前は野蛮な人の風習“とされていたことから、その影響を受けて発令されたと考えられています。
左前はしに装束(しょうぞく)
一般的に、左前(右襟を上にした状態)は「しに装束」とされています。
しに装束とは、亡くなった方が納棺される際に着る着物のことで、縁起が良いとは言えません。
明確にルール違反というわけではありませんが、第三者から批判されるリスクが高いので注意してください。
襟の合わせ方に関する単語
「着物は右前」を間違えないために、襟の合わせ方に関する単語を覚えておきましょう。
覚えておくべき単語は以下の4つです。
- 右前(みぎまえ)
- 左前(ひだりまえ)
- 上前(うわまえ)
- 下前(したまえ)
順番に意味を解説します。
右前(みぎまえ)
右前とは、「“右”襟」を「手“前”」にする着物の着用方法です。左襟が上になる着方ですね。
すべての方がこの方法で着物を着用します。
左前(ひだりまえ)
左前とは、「“左”襟」を「手“前”」にする着物の着用方法です。右襟が上になる着方ですね。
着物をしに装束として着る際に用いられます。
上前(うわまえ)
上前とは、着物を着た際に上に重なる着物の部分のことです。
左襟をはじめとした着物の左部分全体が上前にあたります(死装束を除く)。
下前(したまえ)
下前とは、着物を着た際に下に重なる部分のことです。
右襟をはじめとした着物の右部分全体が下前にあたります(死装束を除く)。
“着物は右前”を覚える方法5つ!
“着物は右前”を覚える方法は主に5つあります。
- 右手が懐に入る形状になっている
- 襟元が相手から見たときに「y」の形をしている
- 右手側の襟から先に合わせる
- 柄が多い方が外側
- 女性は洋服と「逆」、男性は洋服と「同じ」
1つずつ詳しく説明します。
右手が懐に入る形状になっている
右手が懐に入るかどうかで着物の右前が合っているか確認できます。
正しく右前に着れていれば、右手が懐に入ります。間違えていれば入りません。
時代劇で着物を着た方が懐に扇子や財布などの小物を入れているシーンを見たことはないでしょうか。右前は日本人の大多数である右利きの方が物を出し入れしやすいようになっています。
右手に物を持ち、懐に出し入れしやすいかどうかで正しく着れているかチェックしてみてください。
襟元が相手から見たときに「y」の形をしている
相手から見たときに、襟元がy字型になっていれば正しく着れている証拠です。
左襟が上に来るので想像しやすいでしょう。
鏡で見ると反転して写るため注意してください。
あくまで、正面に立った相手の目線でy字型に見えるのが正解です。
右手側の襟から先に合わせる
右手側の襟から先に合わせれば右前を間違えることはありません。
右利きの方は、利き手から先に合わせればOKです。
「右を前に、左を後に」と覚えれば“右前”という単語自体も覚えやすくなるでしょう。
その他にも「自分から見て右が手前」、「相手から見て右襟が前に来る」などの覚え方があります。
あなたの覚えやすい方法で「右前」を記憶してみてください。
柄が多い方が外側
留袖や訪問着・付け下げの場合、裾の柄の多い方が外側に向きます。
着物は相手から見て美しく見えるようになっているからです。
左右の裾を見比べ、柄が多い方を上に着れば右前を間違えることはほぼ無いでしょう。
ただし、柄が規則的な小紋や柄のない色無地は当てはまらないため、本方法を除く上記3つの方法で覚えるようにしてください。
女性は洋服と「逆」、男性は洋服と「同じ」
ボタンシャツを着る際、女性は左前(左側にボタン/左襟が下)で男性は右前(右側にボタン/右襟が下)になりますよね。
ボタンシャツは昔のヨーロッパでは上流階級のみが着られる洋服でした。
ヨーロッパでも日本と同じく右利きの割合が多く、男性は自分で洋服を着るため、右利きが着やすいようにシャツは右前で作られていました。
では、女性は左利きが多かったのか?と言われるとそうではありません。女性は召し使いに服を着せてもらうため、右利きの召し使いが着せやすいように左前で作られたとされています。
しかし、着物の場合は男女どちらも右前で着ます。
ということで、女性は洋服と逆の着方・男性は洋服と同じ着方だと覚えれば間違えづらいでしょう。
着物の「右前」に関する注意点
着物の「右前」に関して、注意すべきポイントは3つあります。
- スマホの左右反転
- 浴衣のときも右前
- 男性も右前
1点ずつ詳しく解説します。
スマホの左右反転
スマートフォンの内カメラで着物姿を自撮りすると、ほとんどの場合左右が反転されて写ります。
右前を正しく着たにもかかわらず、写真で見ると左前に見えてしまい残念です。
そのままSNSにアップしたら「左前じゃないか!」と批判されてしまうリスクもあります。
左右反転で撮ってしまった写真は、編集して正しく右前に戻しておきましょう。
iPhoneのiOS14以降やAndroidであれば左右反転機能をOFFにできるので、事前に対策しておくことをおすすめします。
写真で見て襟がy字になっていれば問題ありません。
浴衣のときも右前
浴衣も着物の一種です。ですから、浴衣も着物と同じように「右前」で着付けます。
花火大会や夏祭りで着る機会も多いでしょうから、間違えないように注意してください。
男性も右前
ボタンシャツなどの洋服は男女で異なる着方をしますが、着物は男女関わらず右前で着ます。
男性の場合は洋服と同じ着方なので混乱しづらいはずです。
どんな服を着るときも右前になると覚えておいてください。
着物の襟をきれいにするコツ
着物の襟をきれいにするコツ3つを紹介します。
- 襟の角度・深さ
- 半襟の幅
- 衣紋の抜き加減
それぞれ詳細を説明します。
襟の角度・深さ
シーンや年齢・体格によって、似合う襟の角度や深さは変化します。
以下の表を参考にしてください。
条件 | 襟の角度 | 襟の深さ |
---|---|---|
フォーマルなシーン | 約90度 | のどぼとけが隠れる程度が好ましい |
カジュアルなシーン | 約60度 | のどぼとけよりも低い位置が好ましい |
若い方 | 約90度 | のどぼとけが隠れる程度が好ましい |
年配の方 | 約60度 | のどぼとけよりも低い位置が好ましい |
大柄(ふくよか)な方 | 約60度 | 浅い方がバランスが良い |
小柄(華奢)な方 | 約90度 | 深い方がバランスが良い |
結婚式に着ていくのか、お茶会に着ていくのかなどシーンに合わせて襟の角度や深さを変えると良いでしょう。
あくまで綺麗に着るコツであってルールではないので、こだわりすぎることなくお洒落を楽しんでください。
半襟の幅
半襟とは上記画像の部分で、長襦袢の襟につけて使うものです。
着物に直接汗や皮脂汚れがつかないよう保護する役割を持っています。
さて、この半襟ですが、着物の襟をきれいにするには出し幅を1.5~2cmに整えましょう。
左右対称に出すことでより美しく見えます。
何度も練習し、美しく整えられるようにしましょう。
衣紋の抜き加減
衣紋とは着物の後ろ襟のことで、上記画像の部分です。
衣紋の抜き加減は、シーンや髪型・気温によって変わります。
下記の表を参考にしてください。
条件 | 衣紋の抜き加減 |
---|---|
フォーマルなシーン | こぶしを縦に1個分かそれ以上(広め) |
カジュアルなシーン | こぶしを横に1個分かそれ以下(きつめ) |
暑い日 | こぶしを縦に1個分かそれ以上(広め) |
寒い日 | こぶしを横に1個分かそれ以下(きつめ) |
低めの髪型 | こぶしを横に1個分かそれ以下(きつめ) |
高めの髪型 | こぶしを縦に1個分かそれ以上(広め) |
ルールが決まっているわけではないので参考程度でOKです。
広めが好みの方は多めに抜いて良いですし、きつめが好みの方はほとんど抜かなくて問題ありません。
まとめ
本記事の内容をまとめるとこのようになります。
- 着物は男女関わらず「右前」が正解
- 「右前」とは左襟が上にある状態のこと
- 「左前」はしに装束で、亡くなった方の着方
- 「右前」は719年の衣服令が起源
- 浴衣も着物と同様「右前」が正解
- スマホで自撮りをする際は左右反転に注意
改めて確認すると、右前とは「“右”襟が手“前”」の状態です。記事内で紹介した覚え方を使って正しく着物を着付けましょう。
着付けが正しくできているか不安な方は、プロの講師から直接教わるのも一つの手段です。着付け教室では、着付けに精通した講師が正しいノウハウを一から教えてくれます。